2012-01-01から1年間の記事一覧

よいお年を!

昨年の父に続き、母が1月に突然逝き、この世で「子供」の役割を終えた。両親が相次いで亡くなり、一気に死を身近に感じるようになった。恐怖ではなく、むしろ親近感に近い。お盆の季節、早朝、無人となった実家の庭を一人で掃除していたら、近年感じたことの…

藤田省三の「三位一体」論

イエスは「神の子」か「人の子」かの論争の続き。これは、三位一体論争と深いつながりがある。三位一体とは、「父なる神」、「神の子イエス」、「聖霊」の三者を一体とするキリスト教の正統教義。今日は、聖書学者ではなく、日本政治思想史の藤田省三による…

「神の子」か「人の子」か

本日の耶蘇教クリスマス特別講座は、昨年の新書大賞を受けた「ふしぎなキリスト教」(橋爪大三郎、大澤真幸、講談社現代新書)から抜粋です。紹介は正確な引用ではなく、要約にしました。 (大澤)イエスはキリスト教という新しい宗教を作ろうとしたのではな…

神不在のユダヤ教

今年もクリスマスがやってきた。この時期は例年、キリスト教にちなんだ記事を書いてきた。 http://d.hatena.ne.jp/fusen55/20101224/1293201368 http://d.hatena.ne.jp/fusen55/20101225/1293265035http://d.hatena.ne.jp/fusen55/20111225/1324777660 季節…

本気の内田節、「街場の文体論」

「街場の文体論」(内田樹、ミシマ社)、読了。 ラカンの鏡像理論を援用しての「自我とは事後的に成立する虚構」も、ソシュールのアナグラム研究も、バルトのエクリチュール論の「フランス的限界」も、内田の読者にはおなじみのネタだが、著者本人が「今年一…

64(ロクヨン)と会社員的倒錯

「64(ロクヨン)」(横山秀夫、文藝春秋)、読了。 地方紙を舞台にした小説「クライマーズハイ」の警察版。筋立てにいささか無理があるが、「志(こころざし)系職業」の世界で、組織病理がどれだけ構成員の「志」を根深く腐食させているかを、手厚い取材…

ハズレが2本

最近、仕事で週末がつぶれることが多いが、時間をみつけて、「白夜」、「幸福の国」を観る。残念ながら、二本ともハズレだった。「白夜」(ロベール・ブレッソン監督)は、ちょっと救いようがなかった。独りよがりの典型的作品。60年から70年にかけて、…

テリトリー執着は逆進化?

自然科学的知見は、ときに人間社会を見渡す視点を、広く、高くしてくれる。猿から進化した種族のかっかした頭を冷やすには効果があるかもしれないので、少し長くなるが引用してみる。 著者は、ゴリラ研究の第一人者である山極寿一・京都大教授。 土地に境界…

現代中国における「徴発」の重要性

少し古いが、有馬学氏が毎日新聞の書評(9月16日付け)で現代中国の理解を助ける3冊を紹介していた。 「シリーズ中国近現代史② 近代国家への模索」(川島真、岩波新書) 「シリーズ中国近現代史③ 革命とナショナリズム」(石川禎浩、岩波新書) 「中華人…

子規と差別意識

風邪なのか、体調がずっとすぐれない。熱っぽいが、体温計は平熱を指している。風船子の場合、体調が悪化すると自我の濃度が薄くなり、生への執着が低下する。「今、このまま消えても、ええやないか」。これは悪い気分ではない。ただ、「自我」が体調と簡単…

日常の凄みと奇怪さ、キアロスタミ

「ライク・サムワン・イン・ラブ」(アッバス・キアロスタミ監督)を観る。強い余韻が残った。題材が「日本の都会の日常」だったので、映画館を出た後、都会の雑踏に出てもまだ映画が続いている感じがした。スクリーンと現実が地続きといったところか。 ただ…

お久しぶりです

お久しぶりです。 ブログを始めて以来、最長の休止でした。別に何があったわけではないのですが、ロンドン五輪の時に、集中的に英国ネタを続けようとしたのが失敗でした。ある程度、資料をそろえて読み込まねば、と思いながら、なかなか進まず、そのうちに書…

負けて泣くな!

ロンドン・オリンピックでは、日本人選手が泣く場面がこれでもかと続く。勝って泣くのは感動的だが、負けて泣くのは正直、みっともない。特に格闘技で負けて泣くのは、けんかで負けた子供が泣いているようで、余計みっともない。昔の日本人選手は、負けてこ…

ポランニーの転換、ロンドンの影響?

ロンドン・オリンピックが始まった。ブリクストンと並び、ロンドンのヤバイ地域として有名だったハックニー地区に世界中から観光客が集まる日がくるとは…オリンピックと現代土木技術の力に驚くしかない。 さて、カール・ポランニーの書評を読んでいて、ロン…

英国伝記文学とイヌの進化

新聞の書評から、二つほどご紹介。 まずはマティス。 マティスの一生は、苦難と葛藤の歴史であった。父との確執、安定せぬ収入、画商の裏切り、美術界の悪評、子供の難病…ひとときも安住することがなかった。 さらに、強靭な意志で芸術制作にすべてを捧げた…

日常に踏みとどまる英国文化

英文学者の小野寺健さんが、新聞に英国文化の特質について書いていた。ある意味で言い古された英国論だが、英国論それ自体が、英国風の文体になっていて、しみじみとした説得力を感じた。 まずは、ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」の感想から。 この…

ロンドン暗転、05年夏

2005年7月6日、ロンドンは、パリを破ってのオリンピック開催地当選決定に沸き立ち、トラファルガー広場は歓喜の大群衆で埋まった。しかし、翌7日朝、ロンドンの地下鉄で「オリンピック決定!」の大見出しが躍る朝刊を通勤客が読んでいる時刻に、今度は…

「退く」ことの品位とは

英国シリーズの続きを書きたいが、調べ直すことが必要で、なかなか二回目がまとまらない。こんなときは、「各紙書評乱れ読み」という本ブログのささやかな得意技を披露して、時を稼ぐ。今回は、7月1日付け朝刊の朝日新聞書評から。 あまりにも生々しく、時に…

お母さんって、誰なの?

お母さんは ボクがいないときには いったい 誰なの? 新聞を斜め読みしていて、はっとする文章に出会った。上記の一文は、毎日新聞7月8日付朝刊に掲載された「郵便配達と夜の国」(大庭賢哉、青土社)の書評からの引用文である。 この作品は未読なので、ど…

ロンドンの逆転勝利

今月27日にロンドン・オリンピックが始まる。ロンドン暮らし経験者として、備忘録もかねて、これを機に不定期で「英国シリーズ」をはじめてみたい。****** 7年前の2005年7月6日、シンガポールで開かれたIOCでロンドンが開催地に決まった。…

ヒッグス粒子・素粒子の種類はいくつ?

ヒッグス粒子の発見は大ニュースだったが、気になったのは標準理論で予想された素粒子の種類の数。調べた限り、毎日新聞だけが18種類で、主要紙やNHKは17種類だった。報道翌日の毎日新聞にはどこにも訂正記事がなかったので、毎日新聞本社に問い合わ…

リアリズムと絵空事

新聞のコラムからの引用。 「論語」、「荘子」をはじめ、中国の古典には、「うまいこというなあ」と感心する社会批評的な小話が満載されているが、以下もそのひとつ。批評的視点は、ある程度以上の社会的成熟度がないと発生しない。紀元前の中国社会が持って…

人生もへったくれも

新聞の文芸時評が目に入った。6月27日付けの朝日新聞掲載の松浦寿輝の文芸時評だ。 松家仁之「火山のふもとで」は、文章の清潔と典雅、物語展開の見事に統御された緩急の呼吸、過不足ない描写の節度と鮮烈…ここにはさしあたり人が小説に求めるすべてがあ…

善光寺、闇の衝撃

長野出張のついでに初めて善光寺を訪れた。。7世紀半ばの創建。日本で仏教が諸宗派に分れる前だったため、無宗派の寺院である。 いい年こいて、今さら恥ずかしいが、一番驚いたのは、お戒壇巡りだった。 本堂内部の急な階段を降りると、廊下が闇の中に消え…

みすず読書アンケート(最終回)

12年版「みすず」読書アンケートの最終回です。例によって、個人的に気になった本を抜粋してみます。2月初めに購入したのに、もう6月下旬になってしまった。 ・「ブレヒトの詩(ベルトルト・ブレヒトの仕事3)」(野村修編、河出書房新社) 〜政治的に…

「書くこと」の原罪

作家カミュが「本能的な恥じらい」を持つ人であったというのが、前回のお話だった。これに対し、中島義道は、「書く人間は恥知らず」と主張する。 家族の醜態を、妻との確執を、自分のセックスライフを書いて、あるいは人生に絶望していることを書いて、その…

カミュ復活と恥じらい

先日「ペスト」をとりあげたが、トニー・ジャットは「失われた二〇世紀」(NTT出版)でカミュに一章をあてている。 カミュは43歳でノーベル文学賞を受賞し、1960年に交通事故で死んだ。異例の若さでのノーベル文学賞受賞だが、ジャットによると、当…

葬式仏教をめぐる論点整理

日本の葬式仏教をめぐる論点を「日本仏教の可能性―現代思想としての冒険」(末木文美土、新潮文庫)の説明をもとに整理してみた。 日本の仏教は、明治維新の際、来世を中心とする江戸時代の葬式仏教からの変化を迫られ、合理的な解釈が求められるようになっ…

「山火林風」は縦書きだった!

先週の「目からウロコ」をご紹介する 言語学者を紹介した新聞記事、いわく 角田太作は、世界130言語を比べて「日本語は特殊な言語ではない」と結論付けている。 例えば「私は本を読む」のように、主語・目的語・動詞の順になっているのは57言語。「I re…

家族愛と便器

先日買った「戦後代表詩選」(詩の森文庫)から、ひとつ取り上げてみる。 きんかくし 家にひとつのちいさなきんかくしその下に匂うものよ父と義母があんまり仲が良いので鼻をつまみたくなるのだきたなさが身に沁みるのだ弟ふたりを加えて一家五人そこにひとつ…