2014-01-01から1年間の記事一覧

2014年大晦日

2014年大晦日。関東は晴れ。空は静かに晴れ渡っている。 ブログはここ数か月、休止状態。別に不調ではない。むしろ体調も、仕事も、読書も、それなりに順調だ。 3年前の大晦日のブログの記事を読んでみた。 ブログを読み返してみると「劣化」を痛感する。後…

本居宣長の真価とは

本居宣長の関連書籍についての書評を紹介したい。 上野誠による「本居宣長」(田中康二、中公新書)の書評と、前田英樹による「本居宣長『古事記伝』を読む」の書評で、いずれも読売新聞10月5日付け朝刊に掲載。まずは上野氏の書評から。 日本の古典研究…

訃報、井上忠氏

哲学者の井上忠氏の訃報が新聞に載っていた。享年88歳。 8年前に異動して、それまでより自由時間が多く持てるようになった。異動自体は不本意だったが、10代からの念願であった「存在論」の勉強の好機だと思った。やはりギリシャ哲学から始めようと思い…

死を前提とする医療とは

臨床の現場で働くベテラン開業医の書籍の書評に、深くうなずいた。書籍の題名は、「『健康第一』は間違っている」(筑摩選書)で評者は、前田英樹・立教大教授。 現代は医療というものが健康や生存への欲望をやみくもに刺激するまことに大掛かりな装置になっ…

傍観者の画家、ヴァロットン

ヴァロットン展を観る。 期待以上だった。ヴァロットンは、20代の写実風肖像画に始まり、生涯にわたり、画風も題材も変化を続け、60歳になったとたんに亡くなった。 画家として絶えざる変化の一方で、変わらなかったのは「傍観者としての眼」ではなかった…

虚実皮膜の快作「ローマ環状線」

映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」を観た。 ローマを囲む環状道路沿いに住むユニークな住民たちの日常を追ったオムニバス風ドキュメンタリー映画。ハラハラドキドキのストーリーとは無縁なためか、集団催眠映画「大いなる沈黙へ」ほどではなかったも…

東京一極集中の犠牲者は都民

「東京一極集中の被害者は、東京都民」というギクリとする指摘。 今日的な地域問題というのは、むしろ都市問題だ。地方から流出して人口が都市に滞留したうえ、結婚も出産もしない。今後、都市部の団塊の世代が後期高齢期に突入すると、一気に財政は傾く。地…

脳内に「私」はいない?

養老孟司氏による「<わたし>はどこにあるのかーガザニガ脳科学講義」(マイケル・ガザニガ、紀伊国屋書店)についての書評(9月14日付けの毎日新聞朝刊)が、還暦以後のテーマである「自我希薄化」の観点から気になった。 もし意識が脳から生じる機能であ…

203高地、旅順湾見えず

夏休みを利用して、大連・旅順に3泊4日で旅行に行った。 旅順へは大連からの一日ツアーを申し込んだ。東鶏冠山堡塁→203高地→水師営→旅順博物館→白玉山のコースだ。 大連から車で広い高速道路を走り、2時間弱で旅順に到着した。203高地はその名の通…

「大いなる沈黙へ」に潜む自我

映画「大いなる沈黙へ」を観た。 フランスの人里離れた修道院で俗世を捨てた修道士たちが静かな生活を送っている。その究極の禁欲生活を記録したドキュメンタリー映画だ。汚濁にまみれたわが身が少しでも浄化されるのでは、と岩波ホールにでかけた。 ハリウ…

乃木司令部の無能ぶり批判

今週末から大連、旅順へ旅行に行くので、予習のために関連図書を読んでいる。司馬遼太郎が旅順攻撃で指揮官としての乃木に批判的だったことは有名だが、あたらめて「坂の上の雲」を読んでみると、予想以上に痛烈だった。 「乃木では無理だった」という評価が…

追悼、木田元さん

哲学者の木田元さんが亡くなった。享年85歳。 初めて買った木田さんの本は「現象学」(岩波新書)だったと思う。もう40年以上前になる。当時のナマイキ系ガキに一人として買ってはみたものの、結局、力不足で読み通せなかった。 その後、哲学とは直接関…

「終戦の詔勅」考

8月15日。現在、どのくらいの日本人が、この日を「特別な日」として受け止めているのか。判断がつかない。 「堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ」の部分だけが有名な昭和天皇の「終戦の詔勅」全文を読んでみた。詔勅の中で、天皇がポツダム宣言を受諾した理由…

イラクを超えたイラク問題

今回は、イラク情勢についての専門家の分析を要約で紹介してみよう。 出典は、高岡豊(中東調査会上級研究員)の「『イラクとシャームのイスラーム国』は何に挑戦しているか」(「世界」2014年8月号) 「イラクとシャームのイスラーム国」(※高岡は、I…

自我の個別性と集団性

「自分であるとはどのようなことか」=「関係としての自己」Ⅳ章(木村敏、みすず書房)=の要約の第二回目。 「主体性」には、個的な主体性と集団的な主体性の二重構造がある。いずれにしても、形成には「関係」が大きく関与している。「自己とは、自己と世…

「関係としての自己」要約編(1)

*このブログはなるべく枠を決めずに実験も含めて、自由に書いていきたい。ただ、個人的意見を長々と開陳することはやりたくない。現時点では、個人的な断想を「脇役」として、自分が読んだ文章の「引用と要約」による情報提供を「主役」にしたいと思ってい…

橋爪のマルクス講義、最終回

「橋爪大三郎のマルクス講義」紹介の最終回。 マルクスの「ユダヤ人問題によせて」とアレントの「全体主義の起源」との 比較も面白かった。 国家が国教から自己を解放することによって、すなわち、国家が国家としてどんな宗教も信奉しないで、むしろ国家が自…

佐藤優の「凄み」と「潔さ」

「外務省に告ぐ」(佐藤優、新潮文庫)読了。 今さら言うのもなんだが、外務省はとんでもない怪物を敵に回してしまった。 内部告発は、組織に追い込まれた者がやけくそになって後先考えずにやる例が多いが、佐藤優は、その辺の「やけくそ告発者」とはモノが…

映画「消えた画」の伝達深度

映画「消えた画―クメール・ルージュの真実」(リティ・パニュ監督)を観た。 カンボジアの泥で作った土人形で「クメール・ルージュ」による大虐殺の悲劇を描くという「離れ業」に挑戦した作品。作品としての完成度は非常に高い。土人形がだんだん実物の人間…

橋爪の資本論批判

「橋爪大三郎のマルクス講義」(言視舎)紹介の2回目。橋爪が指摘する「資本論」の問題点を列挙してみる。 ・国際貿易の場面では、同一労働、同一賃金の原則が成り立たないが、「資本論」ではあくまで一国モデルを対象にして貿易問題は無視している。 ・生…

空気抵抗とプラトン批判

「純粋理性批判」の旅、まだ二日目。「アプリオリな認識」と「経験的な認識」の区別についての説明が続く。 「すべての変化にはその原因がある」という命題はアプリオリな命題であるが、純粋な命題ではない。変化という概念は、経験からしか引き出せないもの…

橋爪のマルクス講義(1)

「橋爪大三郎のマルクス講義」(言視舎)を読んでみた。マルクスとリカードの比較や資本論の独創性と限界などの説明は参考になった。 まずは、マルクス主義への対抗思想としての構造主義の位置づけから。 マルクス主義へのアンチテーゼは、いまのところ、ひ…

「純粋理性批判」の長旅スタート

60歳になったのを機に、「純粋理性批判」読破の長い旅に出ることにする。テキストは、光文社古典新訳文庫(中山元訳)の全七巻(!)を使用する。文庫の帯にある「もう入門書はいらない!」のキャッチフレーズにもグッときた。 今日は、ヴェルラムのベーコ…

六十に至る

私事ながら本日は60回目の誕生日。これまで10歳ごとの節目に特段の感慨を覚えたことはなかったが、今回は少し違う気分だ。未知の世界に足を踏み入れる不安と期待がある。 小学生のころ、少年マガジンに、「ケネディ暗殺を予言した人物が、1970年に世…

蓮實重彦、サッカーW杯を斬る

サッカーファンでもある蓮實重彦が、今回のW杯を痛烈に批判していた。一理も二理も三理もあるとは思うが、相手の可能性を高度な技術で消しあう戦いもそれなりに面白かった気もする。少なくとも決勝戦は、緊張感のあるいい試合だったと思うが、どうだろうか…

兵士と武士のよじれた関係

「愛と暴力の戦後とその後」(赤坂真理、講談社現代新書)の続き。 学区についての記述が面白かった。 「学区」というものが、子供の体感世界にはあった。子供にとっての、目に見えない境界線。このあたりまでなら親和性があり、このへんからは違和感に変わ…

赤坂真理の戦後論

「愛と暴力の戦後とその後」(赤坂真理、講談社現代新書)読了。 日本の戦後論は、70年も経つとあらかた論点が出尽くした感があり、なかなか新しい視角からの問題提示ができにくい。「東京プリズン」で新しい角度からの戦後論を試みた赤坂氏の近著だ。 「…

「現実主義者」の非現実的妄想

現実には当然のことながら、「自己」が含まれている。それどころか、客観的だと思い込んでいる現実像のほとんどが「自己」のゆがんだレンズを通して映じた主観的イメージである。ただ、リアリズムを「自分勝手な思い込み」から峻別するのは容易ではない。そ…

アーレント人気、続く

映画「ハンナ・アーレント」のヒットをきっかけに、アーレントの関連本が売れているらしい。アーレントは筋の運び方にまだるっこしいところがあり、訳者に恵まれているともいえず、日本では売れにくい本だと思っていた。映画は今も引き続き、各地で上映され…

生殖と式年遷宮

「ゾウの時間 ネズミの時間」(中公新書)で有名な生物学者の本川達雄が、伊勢神宮の式年遷宮から生物による生殖を想起したと書いている。出典は、「式年遷宮に思う」(「公研」2014年5月号)。 絶対に壊れない建物を建てることは不可能。万物は熱力学…