現代中国における「徴発」の重要性

 少し古いが、有馬学氏が毎日新聞の書評(9月16日付け)で現代中国の理解を助ける3冊を紹介していた。

「シリーズ中国近現代史② 近代国家への模索」(川島真、岩波新書
「シリーズ中国近現代史③ 革命とナショナリズム」(石川禎浩、岩波新書
中華人民共和国誕生の社会史」(笹川裕史講談社選書メチエ

 上記3冊について有馬は、以下のようにのべる。

 
 川島が提示する近代中国の出発点は、一般のイメージとはずいぶん異なっている。清末の立憲政への模索、清朝の継承としての中華民国、複数の国家構想の競合、袁世凱政権による改革志向などは、革命派中心史観を捨ててかかることを読者に求めている。


 石川が描く孫文死後の時代も、中国国民党から中国共産党への主役交代劇という単純な図式では手に負えない。革命とナショナリズムがねじれあって縄をなしている。敵の中にも味方がおり、味方の中にも敵がいるという複雑なプロセスである。それをわかりやすく整理する石川の手際は見事なものだ。


 通俗的中国観に冷水を浴びせる衝撃度では、笹川の本が一番強烈だろう。笹川は前著「銃後の中国社会」で蒋介石政権の「抗日」がいかに苛酷な動員・徴発によって成り立っていたかを明らかにした。国民党の強権的な徴発が招いた民衆の不満こそが、共産党による権力奪取の前提なのである。権力を握った共産党も徴発を継続した。それとともに共産党が継承せざるをえなかったのは、旧秩序の崩壊によって暴力と権力不信があふれ出した社会であった。それが共産党に、自主的「民意」への警戒と、上からの「民意」形成という統治手法をもたらした。

 いずれも未読。とくに「徴発」に着目した笹川の視点は気になる。