家族愛と便器

 先日買った「戦後代表詩選」(詩の森文庫)から、ひとつ取り上げてみる。

きんかくし


家にひとつのちいさなきんかくし

その下に匂うものよ

父と義母があんまり仲が良いので

鼻をつまみたくなるのだ

きたなさが身に沁みるのだ

弟ふたりを加えて一家五人

そこにひとつのきんかくし

わたしはこのごろ

その上にこごむことを恥じるのだ

いやだ、いやだ、この家はいやだ。


        石垣りん


 詩は、言語を絵の具にして何かを描いた作品と、言語そのものを絵にした作品に概念的には二分される。実際は、二つの要素がカクテルのようにまじりあっている。これは、前者のタイプに属する。ただ、作品の最後だけ読点を使い、言語規則自体の面白さを効果的に活用している。


 それにしても、べたべたとして閉塞した家族の集合感情(これも家族愛かもしれないが)を便器に象徴させるとは…