64(ロクヨン)と会社員的倒錯

「64(ロクヨン)」(横山秀夫文藝春秋)、読了。


 地方紙を舞台にした小説「クライマーズハイ」の警察版。筋立てにいささか無理があるが、「志(こころざし)系職業」の世界で、組織病理がどれだけ構成員の「志」を根深く腐食させているかを、手厚い取材で肉付けして描き出している。


 今年の「ベスト・ミステリー」の呼び声も高い。たしかに犯罪、警察が題材なのだが、真の主役は「組織」であり、一種の「企業小説」の範疇に属するのではないか。こうした小説の前提になるのが、「世界の中に企業(組織)があるのではなく、企業(組織)の中に全世界がある」という登場人物たちの世界観だ。


 これは倒錯した、一種の社会病理だが、この病理の成立が組織構成員にモチベーションをもたらし、「組織の健全運営」につながる一面があるというのが、ややこしいところだ。この倒錯心理は、現実と切れた妄想ではなく、むしろ現実を構成する動因となっている。


 横山は、作品の中で、時折、登場人物たちに「組織の外に広大な世界がある」ことを感じさせている。同時に感じさせすぎると、「企業小説」とは別のカテゴリーのお話になってしまう。


 この病理と不即不離の関係を維持すること。サラリーマンにとって永遠の課題だ。「ちっちぇーなあ」と笑わば笑え。

 なんだか妙な書評になってしまった。