善光寺、闇の衝撃

 長野出張のついでに初めて善光寺を訪れた。。7世紀半ばの創建。日本で仏教が諸宗派に分れる前だったため、無宗派の寺院である。

 いい年こいて、今さら恥ずかしいが、一番驚いたのは、お戒壇巡りだった。

 本堂内部の急な階段を降りると、廊下が闇の中に消えている。右手で木の壁を伝わりながら、そろりそろりと歩いていく。外は真昼だが、何も見えない。これほど完全な暗闇を体験するのは、いつ以来だろう。頭がぶつかるのが怖くて、だんだん前かがみになる。時間がやけに長く感じる。前後に人がいるはずだが、不思議に人の気配が感じられない。「もう、まいった。かんべんしてくれ」と弱音をはきそうになったころ、手さぐりで暗闇を右に曲がると出口だった。ほっとした。


 暗闇の途中で御本尊の秘仏が安置されているという。もちろん、何も見えなかった。闇から疎遠になっている現代の方が、昔よりも、闇のインパクトが強烈かもしれない。


 そのあと、そばにある長野県信濃美術館(池田満寿夫展)と東山魁夷記念館をのぞく。闇のあとで視覚が敏感になっていたせいか、ふだんより集中して作品をみることができた。