追悼、岡田英弘教授

 歴史学者岡田英弘氏の訃報が今朝の朝刊各紙に載っていた。
 ちょうど岡田氏の『日本史の誕生』(ちくま文庫)を読んでいるところだった。

 岡田氏の『世界史の誕生』(ちくま文庫)は、モンゴル帝国が真の意味での「世界史」を成立させたと主張する。

 中国史では、「第一の中国」は秦と漢時代の統一国家、その後、分裂し、中央ユーラシア草原から移動してきた鮮卑などの遊牧民が隋、唐の「第二の中国」を作る。この鮮卑系と争い、最後に中国を飲みこんだのが中央ユーラシア草原のトルコ、ウイグル、キタイ、金、モンゴルである。とくにモンゴルは中国を徹底的にモンゴル化して、元、明、清の「第三の中国」を形成した。このモンゴル化した中国が、今、いわれる「中国の伝統文化」である。

 モンゴル帝国が、それまで別個に存在していた地中海型の歴史と中国型の歴史を融合させて、はじめて「世界史」を成立させた。
 
 モンゴル帝国の影響は広範囲にわたり、中国、インド、ロシア、イランの成立にはモンゴルが深くかかわっており、これらは「モンゴル帝国の継承国家」といってよい。


 スケールがでかすぎて、真偽の判定は素人の能力を超えている。ただ、斬新な視点で世界史を再構成する手際の鮮やかさ、断定の切れ味は、読んでいて爽快感を覚えた。

 『日本史の誕生』も、アジア全体の視点から、極東の島国の地域史としての「日本史」を解き放つ魅力にあふれている。

 日本文明と韓国文明は、中国文明の基礎のうえに、660年代に同時に発達を始めたものである。

 日本史という枠組みは日本という国家が成立した後にしかあてはまらない。だから、7世紀の日本建国以前の歴史は、日本史でも、日本古代史でもなく、日本列島・韓半島満州・中国にまたがる、広い意味での中国史なのである。

 
 岡田氏は、日本の建国の事情について、「みなさんの気に入るような話にはなりそうもない。しかし、真実はえてして苦いものだとあきらめてもらおう」と前置きして、大胆にこう要約している。

 一口に言えば、われわれ日本人は、紀元前2世紀の終わりに中国の支配下に入り、それから400年以上もの間、シナ語を公用語とし、中国の皇帝の保護下に平和に暮らしていた。それが、紀元4世紀の初め、中国で大変動があって皇帝の権力が失われたために、やむをえず政治的に独り歩きをはじめて統一国家を作り、それから独自(?)の日本文化が生まれてきたのである。


 うーん、気に入るかどうかは別にして、明解である。
 お悔みのかわりに、残りを読み続けたい。