「タテマエ」のお手入れ急務

5月14日付の朝日新聞書評欄から、いくつか要約と引用。

『財政と民主主義』(加藤創太、小林慶一郎編著、日本経済出版社)

 日本の財政が先進国のなかで飛び抜けて悪化した理由は、財政の透明性が低く、有権者が将来の政府を信用しなかったのが一因。民主主義には、有権者が「合理的な近視眼」に陥る構造が内在する。子供の前にマシュマロを1個置き「20分待てたらもう1個あげる」と言った場合、発言者の信頼度が結果を決める。約束通り20分後に2個くれることが信用できなければ、今の1個を食べる方が合理的だ。さらに、自分の一票で政策が変わることがなければ、候補者の政策を比較する時間を節約した方が合理的となる。
 またこの書では、持続可能な社会を築くため、各世代の平均余命に応じて世代ごとに議席数を配分する「余命投票制」が提言されている。
                       評・加藤出


 「余命投票制」は、現時点での実現可能性は低いが、高齢化社会での若年、中年の政治的決定権確保に面白い提案ではある。

 路上でも国政の場でも、最近、「建前」は通らないようだ。でも、社会を支えてきたのは、建物の梁のような理念である。幾何学を成立させているのは「点」や「線」が本当はどこにも実在しない理念であるのと同じで、言論の自由や多様性の尊重も近代社会を成立させてきた理念である。それが今、とても危うくなっている。
 こうした理念は「これを崩したら社会はもたない」との危機感に裏打ちされていなければ、もたない。だからこそ、「建前」を絶えず手入れしておく必要がある。
                          鷲田清一

 「建前」の手入れの重要性。自己、組織の個別利益の強調が「ホンネ」として肯定的に語られる現在、有効な「タテマエ」のお手入れとは何か?