2013-01-01から1年間の記事一覧

「純日本」の錯覚から、気になる「自殺」まで

新聞まとめ読みの続き。 毎日新聞日曜版の連載「日本の原像を探る」には教えられることが多い。12月1日付けのタイトルは「『純日本』という錯覚」。 「日本古来の」、「日本人のアイデンティティー」「日本人の心のふるさと」…遷宮の今年、伊勢神宮をめぐ…

訒小平の影から左派の天皇愛まで

「晩年様式集」(大江健三郎、講談社)を読んだ。高校生の時、最初に読んでから40年余、中断はあったものの、大江作品とは長い付き合いだ。ファンというより、一種の腐れ縁のような付き合いだ。今回の作品だが、これまでに比べ、散漫で焦点を欠き物語性も…

戦後日本と戦間期の思想

保阪正康氏が、最近の安倍内閣の動きは、これまで戦後日本になかった「戦間期の思想」を作り出す動きではないかと、警告している。(毎日新聞12月14日朝刊) A国とB国が戦争状態になり、どちらが勝ったにせよ敗れた国は必ず復讐や失地回復、収奪された…

民主主義の模範はミツバチ社会

ミツバチの集団は人間にとって民主主義を最良のモデルであるとの説を唱えた著作が、新聞の書評欄で紹介されていた。 働きバチのうち約3%を占める探索バチの行動分析の本だ。探索バチとは、次の巣作りの場所を探す役目のハチのことで、複数が飛び回り、ふさ…

蘇我家が天皇家!?

12月8日付けの毎日新聞の日曜版連載「神宮とおおやしろ」で、古代日本史について大胆な学説を紹介していた。 聖徳太子は理想的君主として「日本書紀」の執筆者らが捏造した虚像ー衝撃的な説も発表から15年以上たち、今や市民権を得ている。 「聖徳太子…

精神のカンフル剤としての吉村昭

たまった新聞の切り抜きをまとめ読みしていたら、吉村昭讃歌にぶつかった。背骨がふにゃふにゃになった時、こうした文章に出会うと瞬時だが、気合いが入る。 記録文学という文学の一分野がある。事実の重みを信じて、作家の想像による創作演出をあえて抑える…

ユダヤ人虐殺問題の普遍性、アーレント

アーレント映画の続編です。この映画の原作とも言える「イェルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告」(ハンナ・アーレント、みすず書房)から、興味を引いたところを紹介します。映画だけでは見えなかった部分やわかりにくかった背景が、この本を読…

アーレント映画、大入りの不思議

神保町で「ハンナ・アーレント」(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督)を観た。平日の夜七時からの上映に、余裕を持って50分前にビル十階にある岩波ホール行ったら、すでに八階の階段から列が出来ていた。まじかよ! とてもアーレントの読者とは思えない…

曰く言いがたし、「ナマ柄谷」体験

柄谷行人の講演会に出かけた。80年代から90年代にかけ、柄谷の著作からは賛否も含めていろいろ刺激を受けた。せっかく同時代に生きているのだから、一度ぐらいご尊顔を拝しに行こうという次第だ。 この講演会は、岩波書店創業百年記念の一環として企画さ…

「水割り道元」の功罪

30数年ぶりに越前の永平寺を訪れた。当時の記憶はおぼろげだが、長い階段を上って行くうちに少しずつ記憶がよみがえってきた。 本堂の建物に天皇家の紋章である「菊の紋章」がいくつもあった。道元は、中央権力に背を向け深山で座禅三昧の生活を送っていた…

龍馬と海舟の連続墓参り

出張帰りに京都に寄る。時間があったので、思い立って、東山にある坂本龍馬の墓に初めて足をのばす。霊山護国神社境内の斜面にめざす龍馬の墓があった。隣には、一緒に襲撃された中岡慎太郎の墓もあった。 何度がテレビで見ていたので驚きはなかった。それよ…

追悼、飯島耕一

体調はかなり回復したが、まだ自分に体があることを常に意識させられる。つまり、万全ではない。 ヤフーニュースで、詩人の飯島耕一氏の死去を知る。享年83歳。個人的には、その詩作にはあまり反応しなかったが、追悼の意を込めて、二十前半に書かれた初期…

上原浩治MVPと余剰次元の効能

風邪で発熱し、治りきらないうちに10年ぶりに本格的な痛風発作に襲われダウン。続いて、鎮痛剤の飲み過ぎか、ひどい下痢で二日間、固形物が食べられなくなった。その間、仕事も休めず、連日、1万歩以上も足を引きずり歩き回り、「生の実感」をたっぷり堪…

卍とナチス

地図でお寺を示す記号(卍)とナチスのシンボル(卐)がなぜ似ているのか。子供のころから疑問だった。最近、ある新聞記事がその疑問に答えていた。 日本の地図では卍(まんじ、あるいはスワスティカ)は、仏教では2000年以上にわたって親しまれた幸運の…

プリーブケ死去とイタリア現代史

エーリヒ・プリーブケの死亡記事が今日の夕刊の片隅に載っていた。享年100歳。 1944年3月24日、プリーブケはナチス親衛隊将校として、ドイツ軍がローマ郊外でイタリア市民ら335人を殺害した指揮をとった。ドイツ敗戦後、捕虜収容所から脱走してア…

漱石の大親友にしてエロ研究家!

書店でもらってきた岩波PR誌「図書」をめくっていたら、ページ左端の書籍広告で「狩野亨吉の研究」(鈴木正、ミネルヴァ書房)が目に入った。「狩野亨吉。どこかで聞いた名前だな。えーと、だれだったかなあ」と考え込む。ここであきらめては初老性ボケが…

危険思想としての儒教

おなじみの論語学習会の「講師曰く」シリーズ。 講師曰く、「私が徳川家康だったら、儒教は禁止しましたね。だって危険思想ですから」 孔子曰く、天下道あれば則ち礼楽征伐天子より出づ。天下道なければ則ち礼楽征伐諸侯より出づ。諸侯より出づれば、蓋し十…

沢木耕太郎、「風立ちぬ」にハラタチヌ

今日は、映画「風立ちぬ」の否定派による映画評を紹介する。 著者は、沢木耕太郎。沢木は、通常、長所、短所の双方を考慮するバランス派だが、今回は異例とも思えるマイナス一色の酷評ぶり。評論として納得する部分もあるが、怒りの感情が先に立っている印象…

寺山修司の現代詩辛口評論

寺山修司が書いた現代詩に対する辛口批評が新聞の書評欄で紹介されていた。この批評が載っているのは、「戦後詩」(寺山修司、講談社文芸文庫)。 これは、寺山修司が1965年、29歳の時に書いた批評だ。 たとえば茨木のり子。 「わたしが一番きれいだっ…

「恋の渦」、美形なしの映像リアリズム

渋谷のレイトショーで映画「恋の渦」(監督・大根仁)を観た。 先日の「日本の悲劇」に続き、快作にして、マジ、やべえ怪作だった。人に話したくなる映画だ。 内容は、渋谷系フリーターたちの群像劇。登場人物はいずれも身勝手で、人格的に欠陥を抱えている…

藤野可織、無神経かつ繊細な人間たちの魅力

芥川賞を受賞した「爪と目」(藤野可織、新潮社)を読む。 女性特有の生理的感覚をテーマにした小説。若い女性小説家にとって、特権的題材であり、ある意味で、それゆえに安易でもあり、一発だけならともかく、このテーマを基盤に持続的に高いレベルで作品を…

「風立ちぬ」とタナトス

「避暑地での病弱な金持ち美少女との恋」。この題材だけで、少年時より読む気がまったく起きなかったが、先日、宮崎駿の映画を観たこともあり、「風立ちぬ」(堀辰雄)を読んでみた。 私達が二人きりになった時、私は彼女に近づいて、からかうように耳打ちし…

儒教的諫言の勧め

久々に論語ネタです。 「儒教は上下の身分道徳を重要視するので、下位者が上位者に反論するなんて許されない」と思われがちだが、さにあらず。孔子は、君主が間違っていたら嫌がられても注意するのが臣下の務めである」と説いている。 子路、君に事(つか)…

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映画「日本の悲劇」、舞台と映画の高度な合体

映画「日本の悲劇」を観た。 快作、いや、怪作といった方がよいかもしれない。もちろん、快作以上の価値があるという意味だ。 全編、「演技の力」が漲っていた。舞台劇のような緊張感はあるが、舞台劇のような虚構性はない。強度を持つ演技によって生み出さ…

「ルイズ」、重いけど明るい

「ルイズ 父にもらいし名は」(松下竜一、講談社文芸文庫)、読了。大杉栄の末娘ルイズ(伊藤ルイ)の一生を追ったノンフィクション。 著者の松下竜一(1937−2004)は、豆腐屋さん出身の異色作家だった。高校時代に愛読していた雑誌「終末から」に連…

エジプトでの「革命と反革命」

中東政治研究者の池内恵が、エジプト情勢について見解を述べていた。いずれも執筆時点では、現在進行中のモルシ支持派デモと弾圧事件はまだ起きておらず、見解は七月はじめのクーデターによるモルシ政権転覆を受けたものだ。しかし、今後の情勢を考えるうえ…

あのYさんとバッタリ

近所の書店にある雑誌コーナー。隣の男性が雑誌を元の棚に戻そうとしていた。その雑誌は「文学界」だった。この本屋には週に1回は立ち寄っているが、「文学界」を立ち読みしている人を見たことがない。どんな人だろうとそっと横顔を見てみると…あっ、脚本家…

「風立ちぬ」、有能で倫理的人物の倫理的課題

宮崎駿の映画「風立ちぬ」を観た。 映画の主人公は、ゼロ戦の設計者として有名な堀越二郎がモデルになっている。風船子ら昭和30年前後生まれは、「戦争を知らない子供たち」だが、結構、太平洋戦争には詳しい。もちろん堀越は有名人だ。なぜなら、当時の「…

福島原発と天然原子炉問題

岩波書店のPR誌「図書」(13年7月号)を書店でタダでもらって冒頭の記事を読んでいたら、ショッキングな記述があった。 私を含む同位体地球化学を専攻する者の多くは、福島第一原子力発電所一号炉もメルトダウンした核燃料が再臨界を起こし、大規模な核…