2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

リアリズムと絵空事

新聞のコラムからの引用。 「論語」、「荘子」をはじめ、中国の古典には、「うまいこというなあ」と感心する社会批評的な小話が満載されているが、以下もそのひとつ。批評的視点は、ある程度以上の社会的成熟度がないと発生しない。紀元前の中国社会が持って…

人生もへったくれも

新聞の文芸時評が目に入った。6月27日付けの朝日新聞掲載の松浦寿輝の文芸時評だ。 松家仁之「火山のふもとで」は、文章の清潔と典雅、物語展開の見事に統御された緩急の呼吸、過不足ない描写の節度と鮮烈…ここにはさしあたり人が小説に求めるすべてがあ…

善光寺、闇の衝撃

長野出張のついでに初めて善光寺を訪れた。。7世紀半ばの創建。日本で仏教が諸宗派に分れる前だったため、無宗派の寺院である。 いい年こいて、今さら恥ずかしいが、一番驚いたのは、お戒壇巡りだった。 本堂内部の急な階段を降りると、廊下が闇の中に消え…

みすず読書アンケート(最終回)

12年版「みすず」読書アンケートの最終回です。例によって、個人的に気になった本を抜粋してみます。2月初めに購入したのに、もう6月下旬になってしまった。 ・「ブレヒトの詩(ベルトルト・ブレヒトの仕事3)」(野村修編、河出書房新社) 〜政治的に…

「書くこと」の原罪

作家カミュが「本能的な恥じらい」を持つ人であったというのが、前回のお話だった。これに対し、中島義道は、「書く人間は恥知らず」と主張する。 家族の醜態を、妻との確執を、自分のセックスライフを書いて、あるいは人生に絶望していることを書いて、その…

カミュ復活と恥じらい

先日「ペスト」をとりあげたが、トニー・ジャットは「失われた二〇世紀」(NTT出版)でカミュに一章をあてている。 カミュは43歳でノーベル文学賞を受賞し、1960年に交通事故で死んだ。異例の若さでのノーベル文学賞受賞だが、ジャットによると、当…

葬式仏教をめぐる論点整理

日本の葬式仏教をめぐる論点を「日本仏教の可能性―現代思想としての冒険」(末木文美土、新潮文庫)の説明をもとに整理してみた。 日本の仏教は、明治維新の際、来世を中心とする江戸時代の葬式仏教からの変化を迫られ、合理的な解釈が求められるようになっ…

「山火林風」は縦書きだった!

先週の「目からウロコ」をご紹介する 言語学者を紹介した新聞記事、いわく 角田太作は、世界130言語を比べて「日本語は特殊な言語ではない」と結論付けている。 例えば「私は本を読む」のように、主語・目的語・動詞の順になっているのは57言語。「I re…

家族愛と便器

先日買った「戦後代表詩選」(詩の森文庫)から、ひとつ取り上げてみる。 きんかくし 家にひとつのちいさなきんかくしその下に匂うものよ父と義母があんまり仲が良いので鼻をつまみたくなるのだきたなさが身に沁みるのだ弟ふたりを加えて一家五人そこにひとつ…

「ペスト」、神なき倫理へ

少年時代、本がほとんどない家だったが、平凡社の国民百科事典はそろっていた。今では信じられないが、この百科事典は国民的なベストセラーだった。私は、この百科事典を時々パラパラと拾い読みする程度だったが、この百科事典の付録だった「世界の名作文学…

「荒地の恋」の特殊と普遍

最近は多忙と集中力欠如のせいで、なかなか一冊の本を一気に読み上げることが少なくなった。そんななかで、昨日午後買った「荒地の恋」(ねじめ正一、文春文庫)は久々の例外となった。 「荒地」の詩人・北村太郎は、53歳で親友の詩人・田村隆一の妻に恋に…