2011-01-01から1年間の記事一覧

没落経由の再生とは

あと6時間余で2011年が終わる。 今年三月、南の郷里では父親が病気で逝き、北の海辺では万を超える人が津波にのまれた。三月は、大きな杭を腹に打たれたような日々だった。 あの頃は、夜の通勤電車に携帯電話の地震警報が一斉に響くと、車内に緊張が走…

圧巻!重喜劇。今村昌平

暮れに今村昌平が監督した「人間蒸発」、「豚と軍艦」、「にっぽん昆虫記」の3本を観る。さらに今村が共同脚本として参加した「幕末太陽伝」のリプリントも観た。 いずれも傑作ぞろいで、圧倒された。 監督した3本はいずれも昔、観たはずだが、記憶が薄れ…

「天」とGODとの違いとは?

おなじみ、朱子学読書会の講師、曰く 儒教での「天」とは、キリスト教の神のように、全知全能の人格神ではない。モノを言わない。「天何をか言わん。四時行われ、百物生ず」(天は何も言わない。それでも四季はめぐり、万物は生じている。論語・陽貨第17)…

体制の選択肢なき経済危機

経済学者、岩井克人で、経済の現状を概観する。 引用文献は、「自由放任主義と決別せよ」(岩井克人、中央公論11年11月号) 最近、中公はなかなか健闘している。 ソ連崩壊で大半の経済学者は、資本主義の勝利によって市場経済が拡大すればするほど、世界…

クリスマスにイエス誕生考

クリスマスにちなんで、今日は「イエス誕生」を考えてみる。 バレンタインデーが猛追しているとはいえ、クリスマスは、日本でのキリスト教関連行事としては断トツでトップの位置を占める。しかし、キリスト教的に言えば、最重要なのはイエスの誕生よりも復活…

「無言歌」礼賛、唯、美形不要

映画「無言歌」を観る。 1950年代、中国での百家争鳴後の反右派闘争をテーマにした作品。「右派」のレッテルを張られた人たちが、辺境の砂漠で強制労働に従事させられ、次々と死んでいく。ドキュメンタリー映画では実績のある中国人ワンビン(王兵)監督…

正日から正恩へー命名法考

金正日死去で北朝鮮情勢が不透明度を増している。今回は、金王朝と命名法について考えてみたい。引用文献は「人名の世界地図」(21世紀研究会編、文春新書)。正確な引用ではなく、要旨です。 朝鮮半島の人名には血族の流れを示す「行列字」の習慣がある。…

儒教的放伐論、日中比較

朱子学読書会で講師いわく。 古代中国で名君とされる堯、舜、禹の三人だが、いずれも臣下に王の位を禅譲している。しかし、禹以降(夏王朝)から世襲となったため、時に暴君が出てくるようになり、臣下による君主打倒を正当化する放伐論が起こってくる。 孟…

高純度のマフィア映画「ゴモラ」

イタリア映画「ゴモラ」を観た。イタリアのお家芸だったネオリアリズモを継承する見事な出来だった。 ヤクザ稼業にじゃまなものは殺す。映画は、このシンプルな原理に貫かれたマフィアの世界を描いているが、どれも犯罪の部分的エピソードであり、組織全体の…

ユダヤ教の複数パロールとは

以前、プラトンの想起説に言及した。 http://d.hatena.ne.jp/fusen55/20111018/1318946624 これに関連して、内田樹が「他者と死者」(文春文庫)のなかでレヴィナスによる想起説批判を紹介していた。レヴィナスいわく、 一つの思考は二人の人間がいないと明…

地域主義考、ホークスとライオンズ

ソフトバンク日本一を福岡でテレビ観戦した。翌日、郊外の和菓子屋まで「祝ホークス日本一!」とシールが貼られた福袋が山積みになっていた。 40年近く前、郷里・福岡を離れるときは、福岡はまだライオンズの街だった。もちろんすでに西鉄ではなく、親会社…

世界描写と伝達それ自体

「UP」11月号(東京大学出版会PR誌)連載の「進化的人間考」(長谷川眞理子)から。 「私」と「あなた」と「外界」の三つがある。 たとえば「外界」をイヌとすると、子供がイヌを見て指さし、「ワンワン」という。そしてお母さんを見る。お母さんもそ…

紳助のアホ好きと小沢の冷たさ

最近の週刊誌を拾い読み、目に着いた記事を二つほど紹介します。第三者のノウガキよりも、当事者の証言はやはり面白い。 「週刊現代」11・19 松本竜助(06年に脳内出血で死去) 「紳助の番組見てみい。賢い奴とは絶対絡まへんがな。アホばっかしや。な…

ベルルスコーニ雑感

このところ、出張続きでなかなかブログを更新できない。国際情勢の主役は、カダフィからギリシャ、そしてベルルスコーニへと移っている。いずれも、ささやかながらかつての野次馬稼業で現場で「見物」した案件である。書きたいことはいろいろある。ただ、あ…

入試と飛行制限

共同通信の就活ブログに韓国就活事情のリポートがあった。このなかで、大学受験をめぐる記述に驚いた。入試に気を使って軍用機が飛行制限! 昔、韓国で初対面の人から、「私はソウル大卒ですが、あなたはどこの大学ですか?」といきなり聞かれびっくりしたこ…

劉生の多面性と苦悩

大阪市立美術館の岸田劉生展をのぞく。 以前に東京で観たことはあるが、24歳のときに描いた「道路と土手と堀(切通之写生)」が一番のお目当て。有名な麗子シリーズよりも、私としては、こちらに魅かれる。 遠近法のゆがみの影響か、坂道が画面中央で不自…

「やがて来たる者へ」の被害者史観

イタリア映画「やがて来たる者へ」を観た。 第二次大戦中、北イタリアで起きたナチスによる農民虐殺事件をテーマにした映画だが、「第二次大戦のイタリア」といえば「日独伊三国同盟で最初に負けた国」のイメージしかない日本では、なぜナチスとイタリア人が…

カダフィ死亡か?

都内で、スペイン人の美術関係者を囲んでメシを食っていたら、一人のスペイン人が自分のスマホをのぞき、「おい、カダフィが殺されたらしい」とアナウンスした。なんでも、美術館でカダフィを案内したことがあるという。「オレも、四半席前に、カダフィの5…

「悟り」とは思い出すこと也

久々に、論語研究会の「講師曰く…」 プラトンのイデア論では、人間は生まれる前にすでにイデアを見ている。そこで、真理は「思い出す」ものになる。「善」は人間に本来備わっているものとする儒教の考えもそれにちかい。 儒教の性善説は、パソコンに例えれば…

娘が父の死を映画にした

映画「エンディングノート」を観た。 ガンで死に行く父を実の娘が撮影したドキュメンタリー映画。これだけ聞くと、「かんべんしてくれ」って気になる。ただ、「ほぼ日」で糸井重里が、「お涙頂戴映画」とは違った角度からの評価だったので、映画館に出かけて…

辛亥革命は第二の明治維新?

朝日新聞10月9日付けの書評欄から、ピックアップ。 「孫文の辛亥革命を助けた日本人」(保阪正康、ちくま文庫)は、宮崎滔天や山田良政・純三郎兄弟などがいかに献身的に中国の革命に関わったかを分かりやすく叙述している。 興味深いのは、孫文を慕う日…

西郷が毛沢東の先駆者!

先々週の読売新聞書評に載っていた哲学者・野家啓一の紹介が面白かった。 著者(渡辺京二)は西郷を「異界の人」と呼ぶ。死者の国に半身を浸し、死者との連帯に生きる人、という意味である。彼の心情は常に寺田屋の変や戊辰戦争の死者と共にあった。 そうし…

RTFと上原ひろみ

風船子は、音楽に対して感情的な反応はできるが、文章や絵画に対するように作者からのメッセージをうまく捉える事ができない。したがって、感想は書けても、評論として成立しない。ある種の不感症だとおもう。 むろん、「それでいいじゃないか」という立場も…

フジタとシラス丼

ぶらりと湘南へ。 鎌倉で下車して、鶴岡八幡宮境内になる神奈川県立近代美術館鎌倉をのぞく。「開館60周年 ザ・ベスト・コレクション」が開催されていた。 藤田嗣治の「職人と女中」が面白かった。顔の描写が大友克洋を思い起こさせた。外国人の眼に映る「…

初めて被災地に

テレビ画面や写真で数え切れないほど東日本大震災の被災地の惨状を目にした。しかし、大規模災害は、その場所に行ってみないとその規模が実感できない。 仙台に出張したので、仕事が終わったあと、駅前からタクシーに乗って海辺に向かった。運転手に「被災の…

「SIGHT」諸論紹介

渋谷陽一編集の季刊誌「SIGHT」の2011年夏号を購入。タイトルは「原発日本」。例のごとく、暴論ながら「一理あり」と思わせる発言もあり、以下、紹介します。 大阪の橋下知事について、内田樹がいつになく敵対感情をあらわに批判している。 最初の…

犬塚勉、到達点としてのリアリズム

礒江毅に続くリアリズム考第二弾。 日本橋高島屋で犬塚勉展をみる。一昨年のNHKテレビ「日曜美術館」の犬塚特集をみて、ぜひ実物を見てみたいと思っていた。 ちなみに、この番組では亡き夫を語っていた犬塚夫人の姿も印象に強く残っている。感情を抑制し…

吉村昭の戦争観

吉村昭を読み続けている。「陸奥撃沈」(新潮文庫)から、「史実を歩く」(文春文庫)、「わたしの普段着」(新潮文庫)のエッセイ二冊に進み、本棚には「戦艦武蔵」と「吉村昭が伝えたかったこと」(文藝春秋9月臨時増刊号)が出番を待っている。 「陸奥爆…

「現実破壊」としてのリアリズム、礒江毅

練馬区立美術館で「礒江毅=グスタボ・イソエ」展をみる。礒江は30年間、リアリズムの画家としてスペインで暮し、2007年に53歳で急逝した。 リアリズムの超絶技巧で描かれた事物は、写真のような「現実感」がある。しかし、じっとみていると、その「…

吉村昭に開眼

このところ、読書の軸になっているのが、吉村昭だ。 先月、本屋で立ち読みして、文章が抵抗なくスッスと入ってきたので、「私の文学漂流」(吉村昭、ちくま文庫)を買った。吉村作品は「破獄」と雑誌のエッセイぐらいしか読んだことはない。「破獄」は面白か…