リアリズムと絵空事

 新聞のコラムからの引用。

 「論語」、「荘子」をはじめ、中国の古典には、「うまいこというなあ」と感心する社会批評的な小話が満載されているが、以下もそのひとつ。批評的視点は、ある程度以上の社会的成熟度がないと発生しない。紀元前の中国社会が持っていた社会悪も含めた成熟度に驚く。

 中国の戦国時代の斉王が絵の名人に聞いた。「何の絵を描くのが難しいのか」。名人は「犬や馬です」という。「やさしいのは何か」。「それは鬼魅(化け物)です」。斉王は「なぜか」と聞いた。
 
 名人はこう答える。「犬や馬は誰でも毎日見ているから、うそはすぐばれる。鬼魅は見た者がいないから、何とでも描けます」。この話は諸子百家の中で法家と呼ばれる現実主義の書「韓非子」になる。現実にかかわるうそは通用しないが、絵空事なら何でもいえる。

                                 120627付け、毎日新聞「余禄」


 未来や過去、神さまや死後の世界、愛情や憎しみ…「だれも見た者がいない化け物」はたくさんいそうだ。