圧巻!重喜劇。今村昌平

 暮れに今村昌平が監督した「人間蒸発」、「豚と軍艦」、「にっぽん昆虫記」の3本を観る。さらに今村が共同脚本として参加した「幕末太陽伝」のリプリントも観た。


 いずれも傑作ぞろいで、圧倒された。

 監督した3本はいずれも昔、観たはずだが、記憶が薄れていて、その分、驚きもあり、堪能した。感想を書こうとすると、「戦災から復興する日本人のエネルギーと欲望が充満した重喜劇」といった定評をなぞるしかないので、やめておくが、国際レベルでもかなり高度な実験精神と完成度を持った作品群だといえる。
 「神々の深き欲望」、「楢山節考」、「うなぎ」などは封切り時に観て、それほど感心した記憶がない。上記の3本は、今村のピーク時の作品かもしれない。

 「貧乏を演じさせると日本人はうまい」と言ったのは伊丹十三だが、今村作品では俳優が「元気な貧乏人」を演じるのが実にうまい。「にっぽん昆虫記」の左幸子などは、「演技」の枠を超えて神がかっていた。


 「幕末太陽伝」も落語の映画化という高いハードルを見事にクリアして、日本映画史に名を残す快作となった。フランキ―堺があんなに凄い俳優だったとは。小沢昭一の怪演ぶりにも酔っ払った。石原裕次郎のへたくそな演技が目立っていたが、これも喜劇の一部と思えば許せる。幻のラストシーンのエピソードは面白い。これが「人間蒸発」のサプライズ演出につながっていく。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%95%E6%9C%AB%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%82%B3


 今村は、社会最下層のチンピラや百姓を主人公にして、それを成功物語にせず、悲劇的な素材を喜劇に仕立てあげるという離れ業を達成した。緩い坂道をずるずる下降している感のある今の日本で、再び、「エネルギッシュな重喜劇」は可能なのか?