RTFと上原ひろみ

 風船子は、音楽に対して感情的な反応はできるが、文章や絵画に対するように作者からのメッセージをうまく捉える事ができない。したがって、感想は書けても、評論として成立しない。ある種の不感症だとおもう。


 むろん、「それでいいじゃないか」という立場もある。週末にRTF(リターン・トゥー・フォーレバー)の公演に行った。この夜は「これでいいじゃないか」と思った。


 場所は、日比谷の野外音楽堂。開始は午後五時半。上を見上げると、初秋の青空が暮れていく。少し肌寒いが、日比谷公園の木立を吹き抜けてきた秋風が、心地よい。虫の音も聞こえる。


 70歳になるチックコリアは相変わらず元気だ。、名古屋、神戸、福岡とすでに日本各地を巡演しており、疲れはあるはずだが、半分立ちっぱなしでテンポある曲を弾きこなす。圧巻はスタンリークラークのベースだった。ベースの音がヘビー級ボクサーのパンチのように腹に響いてくる。
 
 ドラムのレニー・ホワイトが、マイクを持って「おれたちの音楽は、ジャズなのか、ロックなのか、どっちなんだ、と聞かれる。おれにもわかんねえ。ただ、これだけはいえる。おれたちは、「boy’s band(ガキのバンド)」じゃなくて、「men’s band(オヤジのバンド)」なんだ」。

 
 最後にジャズピアニストの上原ひろみがサプライズゲストで登場して、セッションに加わった。いや、初めて生で聞いたが、すごい。その迫力はチックを食っていた。上原は十数年前、16歳のときに来日中のチックコリアの公演で、舞台で偶然演奏を披露し、チックに絶賛されたとの伝説の持ち主。この日のお客さんは「ぜいたくなおまけ」をもらったことになるが、一方で、現役バリバリ感のある彼女の演奏は、オヤジバンドの影を薄くさせ、ノスタルジックにRTFを聴きにきたオヤジたちには邪魔だったかもしれない。