西郷が毛沢東の先駆者!

 先々週の読売新聞書評に載っていた哲学者・野家啓一の紹介が面白かった。

 著者(渡辺京二)は西郷を「異界の人」と呼ぶ。死者の国に半身を浸し、死者との連帯に生きる人、という意味である。彼の心情は常に寺田屋の変や戊辰戦争の死者と共にあった。


 そうした西郷が維新で目指したのは「国家や政治権力からもっとも遠い民の生活の位相」に立脚した「小農民経済の上に立つ漸進的な近代化、いわば低成長主義」の政策であった。そこから著者は「彼は兵農一致に立つコミューン国家を構想したのであって、その意味で毛沢東主義のかくれた先駆者」と位置づける。


 だとすれば、西南戦争を単なる「士族反乱」へと矮小化はできない。著者によれば、それは「農村共同体の立場からの新政府の近代化路線への抵抗」であり、「実務官僚と現実的な権力執行者に対する夢想家の反功利主義的反乱」であった。いわば「裏切られた革命」への第二維新であり、著者はその点を見逃さなかった宮崎滔天北一輝を高く評価する。


「維新の夢」(渡辺京二コレクション、ちくま学芸文庫)の野家啓一の書評


 渡辺京二らしい史観。このコレクションは楽しみだが、その前にツンドク状態にある「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)を先に読みたい。