虚実皮膜の快作「ローマ環状線」

 映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」を観た。


 ローマを囲む環状道路沿いに住むユニークな住民たちの日常を追ったオムニバス風ドキュメンタリー映画。ハラハラドキドキのストーリーとは無縁なためか、集団催眠映画「大いなる沈黙へ」ほどではなかったものの、観客睡眠率はそこそこ高かった。小生も途中で意識が混濁した時間があったが、退屈したわけはない。むしろ、断固支持したい作品だった。


 小生自身、むかしローマ北西の郊外に住んでいたことがあり、GRAは何度も走ったことがある。沿道には大きな住宅地はなく、空き地が広がっていた記憶がある。今回は、懐かしさが先に立ち、まったく予習なしで作品を観た。


 登場人物のほとんどが浮世離れしているため、てっきり俳優を使ったドラマかと思っていたら、すべて実在の住民たちであった。そうだった、そうだった。ローマ在住の時、テレビ番組に出演する一般参加者と芸能人の区別がつかなかったことを思い出した。日ごろテレビ出演とは無縁の人たちも、テレビカメラの前で臆することなく、いや、むしろいつもより張り切ってしゃべくりまくっていた。


 この映画に出てくる「市井の人たち」は、そのイタリア標準より、さらに一クラス、二クラス上級のクセモノぞろいだった。普通だが普通ではない人たち。自然体だが不自然な人たち。ジャンフランコ・ロージ監督は、この連中を安易なヒューマンストリーに落とし込まず、クセモノをクセモノのままでスクリーンに盛り付けた。


 虚実皮膜の快作。フェリーニを想起させた。ヴェネチア国際映画祭で、ドキュメンタリー映画としては初めて最高の金獅子賞を獲得した。

 審査員にも「アッパレ」を進呈したい。