「純日本」の錯覚から、気になる「自殺」まで

 新聞まとめ読みの続き。

 毎日新聞日曜版の連載「日本の原像を探る」には教えられることが多い。12月1日付けのタイトルは「『純日本』という錯覚」。

 「日本古来の」、「日本人のアイデンティティー」「日本人の心のふるさと」…遷宮の今年、伊勢神宮をめぐる報道や出版物の中では、「日本」の語句があふれ返っている。しかし、「日本」の純粋な姿を伊勢神宮がとどめているなどと、のんきに言っていてよいものなのか。


 伊勢神宮の内宮、外宮とも、正殿の欄干に「五色の座玉」が置かれている。これも実は外来思想の産物だ。古代中国で発達した陰陽五行説に基づく建築様式を伊勢神宮が採り入れたものという。伊勢神宮御神体は青銅鏡の八咫鏡(やたのかがみ)だ。

 工藤隆・大東文化大名誉教授は、伊勢神宮は、木や石といった自然物に霊性を見いだすアニミズム的な魅力を発信しているが、銅鏡は当時の先進文明国・中国のものであり、「純日本」的観点からは違和感がある。


 銅鏡信仰には中国の道教の影響があるとの学説もあり、また伊勢神宮の建築の特徴である独立棟持柱も、中国の前漢時代の遺物で確認できるという。

 だからといって、卑下することはない。記事は、中国大陸の影響について、こう述べている。

 その時代の最高のものを摂取し、神様に提供しようとした意欲の表れだろう。

 日本に限らず、ある国家による「純粋な文化」なるもの自体が無理筋。文化の基礎となる言語を考えただけでも、文化の本質がハイブリッドであることは自明だ。


 さて、今年の良書を選ぶ記事の紹介。12月15日付けの毎日新聞朝刊から。

・「仏教の真実」(田上太秀、講談社現代新書
〜釈迦は霊魂を認めず、経験的事実を基礎に最上の「人の道」を説いた。日本式仏教に慣らされた眼に新鮮だ。(評・海部宣男


・「最後の転落 ソ連崩壊のシナリオ」(エマニュエル・トッド藤原書店
〜トッドが25歳の時に書いた処女作。抑圧国家は抑圧システムがコスト高になりすぎて機能不全に陥ったときに崩壊するという「当たり前」の真実を教えてくれる。(鹿島茂


・「自殺」(末井昭、朝日出版)
〜東に先物取引ありと聞けば巨額の借財を背負うまでのめり込み、西に素敵な女性ありと聞けば四角関係にまで突き進む。著者の裸の人生譚に人は憩う。「国でも人でも、強い者は周りに迷惑」と断ずる筆者。そんな大人に私もなりたい。(加藤陽子

 奇人の自伝だろうか。気になる書評だ。読み手としても広角打法の猛者である加藤女史の推薦なら間違いはないと思う。