民主主義の模範はミツバチ社会

 ミツバチの集団は人間にとって民主主義を最良のモデルであるとの説を唱えた著作が、新聞の書評欄で紹介されていた。

 働きバチのうち約3%を占める探索バチの行動分析の本だ。探索バチとは、次の巣作りの場所を探す役目のハチのことで、複数が飛び回り、ふさわしい広さと天敵や風雨から集団を守る最適な場所を探す。それぞれは、ここぞと思った場所を発見すると、巣に帰って尻振りダンスによるマニフェスト戦を展開し、支援者を取り込む。場所が決まると他のハチは動かなくなり、そこへ全員で移動する。


 専門書だが、民主主義のプロセスを考える知恵がつまっている。討議のはじめにリーダーがやるべきことは、「集団の繁栄にみんなが関係している」と気づかせ、「問題解決のための手順」など中立的な情報を与えることだ。その後、「リーダーが集団の考えに及ぼす影響をできるだけ小さくする」ことで、「自由に質問ができる雰囲気を作り出し」「疑問や意義の表明を奨励」することが重要になる。なぜなら「集団が選択肢を探す能力は一個人の力に勝る」からである。


 著者があげている正反対の例は、ブッシュ大統領による2003年のイラク侵攻決定である。リーダーを喜ばせようと、周囲が早すぎる合意をした事例だという。


 「ミツバチの会議 なぜ常に最良の意思決定ができるのか」(トーマス・D・シーリー、築地書館) 田中優子による書評

 正反対の例は、この国でも無数に存在する。

 また「集団による選択能力」を軽視して自身の権力欲を管理能力と勘違いしている自称「できるリーダー」も、また無数に存在する。地球上で組織集団として最高レベルの進化をとげているのは昆虫だと聞いたことがあるが、この紹介を読むとまんざら誇張でもなさそうだ。


 ただミツバチのリーダーは、どうやって「集団の繁栄にみんなが関係している」ことをミツバチたちに伝えるのだろう。ミツバチにとっての「自由に質問できる雰囲気」とはどんな雰囲気なのか。とりあえず、立ち読みしてみるか。