卍とナチス

 地図でお寺を示す記号(卍)とナチスのシンボル(卐)がなぜ似ているのか。子供のころから疑問だった。最近、ある新聞記事がその疑問に答えていた。

 
 日本の地図では卍(まんじ、あるいはスワスティカ)は、仏教では2000年以上にわたって親しまれた幸運のシンボルだ。なぜ、ナチスのシンボルであるハーケンクロイツ(鉤十字、 卐)とそっくりなのか。


 ヒトラーは、(卍の)仏教での本来の意味を知りながら、ユダヤ人に対するキリスト教徒の聖戦の意味で、「ハーケンクロイツ」(鉤十字)と呼んだ。(その名称からも)彼にとっては、あくまでも十字架だったのだ。


 ところが、第二次大戦後、英語に訳された「我が闘争」では、「ハーケンクロイツ」は「スワスティカ」との言葉にすり替えられ、キリスト教徒がホロコーストを起こした印象が巧妙に隠された。

 仏教やヒンズー教、またはアメリ先住民族の聖なるシンボル、スワスティカに、邪悪なシンボルの汚名を着せることで守られたのは、もちろんキリスト教である。十字架は卍の中に隠され、卍によって守られたのだ。


「卍とハーケンクロイツ」(中垣顕實、現代書館)の書評。評者は、ノンフィクション作家の星野博美(読売新聞8月11日付け朝刊)


 筆者は、ニューヨーク在住の浄土真宗の僧侶だとか。

 ウィキペディアには、こんな説明もあった。

 ナチスがこのシンボル(鉤十字)を採用した経緯は、ドイツの考古学者、ハインリッヒ・シュリーマンがトロイの遺跡の中で卐を発見し、卐を古代のインド・ヨーロッパ語族に共通の宗教的シンボルと見なしたためである。これに基づき、アーリアン学説のいうアーリア人の象徴として採用したものである。

 アドルフ・ヒトラーは著書『我が闘争』の中で、支持者からの多くの提案で党旗の最終デザインを選ぶと述べた。ハーケンクロイツは歯科医フリードリヒ・クローンによって提案され、アーリア人優越論のシンボルとされた


 この説明だと、「アーリア人のシンボル」が採用理由であり、十字架を意識していたかどうか、卍の仏教本来の意味を知っていたかどうかは判然としない。ここらあたりの論証は、前掲書にあるのかもしれない。

 ただ、欧米が自分の体内から生まれたナチズムの責任をキリスト教に負わせず、仏教になすりつけたという主張は、「さもありなん」という気はするが。この「我が闘争」の英訳者は何人だろう。