福島原発と天然原子炉問題

 岩波書店のPR誌「図書」(13年7月号)を書店でタダでもらって冒頭の記事を読んでいたら、ショッキングな記述があった。

 
私を含む同位体地球化学を専攻する者の多くは、福島第一原子力発電所一号炉もメルトダウンした核燃料が再臨界を起こし、大規模な核分裂反応を起こすのでは、との危惧を払拭し切れない。もしそのような事態ともなれば、東日本が壊滅するとの菅元首相の警告が現実のものになってしまう。
           
               小嶋稔「天然原子炉と福島原発事故


 小嶋氏によると、昨年七月に経産省で行われた福島原発事故に関するワークショップで、自己直後にウランの核分裂連鎖反応の再臨界が起きる可能性が高かったが、海水注入による予期しなかった塩素の中性子吸収効果という偶然に助けられ、再臨界が起きなかったという。しかし、その後も再臨界の可能性はゼロになったわけではないという。

 ここで小嶋氏が問題にしているのが、「天然原子炉」問題だ。

 1950年代初頭、米国で研究していた日本人の地球化学者、黒田和夫はウランの核分裂連鎖反応は自然界でも起こり得ると主張した。この説は学界からは無視された。しかし、1972年、フランス原子力庁は、アフリカのガボン共和国にあるオクロ鉱山から産出されたウラン鉱石の同位体組成が原子炉での使用済みウラン燃料の燃えカスと酷似していると発表した。
 その後の天然原子炉研究によると、このオクロ天然原子炉は20億年前にウランが臨界に達し、約15万年間、原子の火が間欠的に燃え続けたという。

 小嶋氏はこう警告する。

 
現在の福島第一原発1号炉から漏れ出した35トンのウラン燃料は、周囲の物質と混じり合い、原子炉格納容器下部に溜まっているといわれるが、極度に高い放射線のため直接観測は不可能で、実態はわからない。

 ただ、福島原発が置かれている環境は、オクロ天然原子炉で核分裂連鎖反応の要因となった豊富な水の存在、さらにウラン235の濃縮度もオクロと近い値を示しており、オクロ鉱床の状態に近い可能性も否定できない。


 自然状態での核分裂連鎖反応の危険性は初耳だ。真偽を判断する能力を持ち合わせていないが、本当なら空恐ろしいことだ。