古代中国哲学があなたを変える!

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』(マイケル・ピュエット、早川書房)を読む。

 なんだが「信長から学ぶ部下掌握術」のようなおバカタイトルだが、意外にも(ハーバード大に失礼だが)中身は本格的、かつユニークな中国思想解説書だった。英語の原書まで注文してしまった。

 著者は、ハーバード大の中国史教授。学部授業の「古代中国の倫理学と政治理論」は、経済学入門、コンピュータ科学入門に次ぐ学内3位の履修者数を誇る人気講座となっているそうだ。たしかに古代中国哲学への偏見が吹き飛ばされ、「今、使える道具」としてよみがえった気がする。

 今日は、最初のさわり部分を紹介する。
 
 著者によれば、西洋人の多くにとって、よき人生とは「本来の自分」に忠実に生きることである。これはカルヴァン派の予定説を引きずっている。一方で、西洋人にとって、古代中国は階層と序列で縛られた因習に満ちた伝統社会であり、プラス面があってもそれは「郷愁を誘う骨董品」レベルにしかすぎない。

 しかし著者は、「古代中国哲学は、貧富の格差、自己中心主義、環境問題など危機の増大を前にする21世紀の現代にとって現実的な代替案を示すことができる」と主張する。

 しかし、代替案といっても理路整然とした政治社会思想などではなく、自己や、世界の中での自己の役割についての観念だ。その多くは、なんらかの包括的な思想体系に従って生きるという考え方に対抗するなかで練り上げられた。

 それは、体系的なナントカ主義ではない。後述されるが、それは、「身近な日々のパターンを修正して世界を変える」という戦略だ。

(「本当の自分とは何か」というように)自己を定義することにこだわりすぎると、ごく狭い意味に限定した自己を基盤に未来を築いてしまう恐れがある。中国の思想家は、どの人もみんな複雑で、たえず変化する存在であることに早く気づけと説くに違いない。私たちの感情は、世間のしがらみを断って瞑想したり、旅に出たりしても養われない。日々の営み、つまり他者と関わり、行動しながら実地に形作られる。

 自分は、常に変えられる、しかも、良い方向へ変えられる。ただ、それは日常の現場での地道な努力の継続でゆっくりしか変えられない。その絶え間ない過程を、中国の思想家は「道」と呼ぶ。

 道は、私たちが努力して従うべき調和のとれた「理想」ではない。そうではなく、道は自分の選択や行動や人間関係によってたえまなく形づくっていく行路だ。

 The Way is not a harmonious “ideal” we must struggle to follow. Rather,the Way is the path that we forge continually through our choice ,actions, and relationships. We create the Way anew every moment of our lives.


 本日、これにて。