今さらですが、米原真理に感心

正月の気まぐれで「打ちのめされるようなすごい本」(米原真理、文春文庫)を買ってみた。もちろん米原が優秀なロシア語通訳者であり、名エッセイストであり、五十代で鬼籍に入ったことも知っている。新聞での書評やエッセイもいくつか読んで、好感をもっていた。

 しかし、まとまって書評を読むと、その腕前がハンパでないことに今さらながら感心した。丸谷才一が文庫版の解説で「わたしは(書評家として)彼女を狙っていた」と称賛するだけのことはある。
 まず対象となった書物の要約のうまさに感服した。「要約なんか、国語の授業でもやるし、だれでもある程度できるでしょ」と思われがちだが、要約能力は書き手の頭のレベルを露骨に示す。

 次に対象となった本の多彩さ、範囲の広さ。さらに専門外と思われる本でも単なる印象論に終わらせない。これは読解力を支える良い意味での教養の分厚い蓄積がある証拠だ。
 その結果、選ばれた本がどれも本当に有意義、かつ面白そうにみえる。まだ3分の1しか読んでないが、読んでみたい本が続出している。紹介されたうち、食指が動いた本を列挙してみる。

 「転がる香港に苔は生えない」(星野博美、文春文庫)、「赤いツァーリ」(ラジンスキー、NHK出版)、「スターリン言語学精読」(田中克彦岩波現代文庫)、「革命の中の中央アジア」(小松久男東京大学出版会)、「13階段」(高野和明講談社文庫)、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(モフセン・マフマルバフ、現代企画室)、「猪谷六合雄」(高田宏、平凡社ライブラリー)、「夜の記憶」(トマス・H・クック、文春文庫)、「笹まくら」(丸谷才一新潮文庫)、「明るい夜」(エヴァゲーニヤ・ギンズブルグ、集英社文庫)、「きみの出番だ、同志モーゼルー詩人マヤコフスキー変死の謎」(草思社)、「スポーツ解体新書」(玉木正之朝日文庫)、「趣味は読書。」(斎藤美奈子ちくま文庫)、「北朝鮮を継ぐ男」(近藤大介、草思社)、「完本 昭和史のおんな」(澤地久枝文藝春秋)、「騎馬民族は来なかった」(佐原真、NHKブックス)、「魏志倭人伝の考古学」(春成秀爾、岩波現代文庫)、「裁判官に気をつけろ」(日垣隆角川書店)、「M/世界の、憂鬱な先端」(吉岡忍、文藝春秋)......