「終わりの感覚」、諦念と我執のカクテル

 「終わりの感覚」(ジュリアン・バーンズ、新潮クレスト)を九州出張の移動の間で読了した。


 学生時代の仲間たちを土台にしたストーリーという点では、村上春樹の「多崎つくる」と共通点があるが、物語の完成度では、こちらの方が上回っていると思えた。


 青春への執着と初老の諦念が絶妙に混じり合い、独特の味を出している。真摯だが、英国らしい皮肉が効いており自我からの距離も適度にとれている。「シニカルとシリアスとの英国風カクテル」とでも呼びたくなる佳作だった。



 「記憶のあいまいさ」もテーマだが、アラカンにとって身につまされる話ではある。最後のどんでん返しは、一種のサスペンス小説としてはうまいオチだが、心理小説としては果たして必要だったかどうか。ここは評価が分かれるところだろう。気のきいたセリフも多く、原文の英語ではどうなっているのか気になったので、丸善をのぞいたら原書を見つけた。新刊を1008円で購入。楽しみだ。


積読のなかに同じ作者の「イングランドイングランド」を発見した。さっそく読みはじめたが、こちらは、かなりひねくれた小説で難儀しそうだ。