英国総選挙と「2つのナショナリズム」

英国総選挙は意外な結果となった。事前の世論調査を材料に、マスコミは「保守、労働の二大政党とも過半数に届かないのは確実で、焦点は選挙後の連立問題」と報じていたが、結果は与党・保守党が過半数を確保し、保守党単独政権が決まった。


 風船子は、1997年のブレア政権誕生、2001年の労働党圧勝、2005年のイラク参戦でボロボロになったブレア政権の辛勝と、3回続けて英国総選挙をロンドンで「見物」した。それゆえ、英国の総選挙は気になる。


 確かに直前まで大半の英国メディアも接戦を予測していた。人気のないミリバンド労働党首が4月のテレビ討論で意外に健闘したこともあり、「労働党第一党の可能性も」の声もあった。

 
 先進国でこれだけ予測がはずれることは珍しい。「安定を求めたから保守党が勝った」という屁のツッパリにもならないものも含め、さまざまな分析が報じられているが、「事前予測がなぜはずれたのか」についてぴったりくる説明はなかなか見当たらない。あえて言えば、労働党勝利が現実味を帯びてきただけに、保守党が直前で力を入れた「労働党スコットランド民族党(SNP)が組むと、英国が分裂する」というネガティブ・キャンペーンが土壇場で効いたのかもしれない。

 気の利いたコメントして、「労働党は二つのナショナリズムに負けた」というのがあった。時事通信は、これはかつてのブレア側近であるアンデルセンの発言だとしているが、ガーディアン紙は、スコットランド労働党指導者ジム・マーフィーの発言として下記のように引用している。


昨年の独立をめぐる住民投票スコットランド独立の現実味を英国民は痛感した。そこでスコットランド人はSNPに投票し、イングランド住民の多くは「英国領土縮小」を嫌って、SNPと連立を組みそうな(労働党自身は、SNPとの連立を明確に否定していたが)労働党を敬遠した、というわけだ。

“We were hit by two nationalisms. A Scottish nationalism reassuring people that they could vote SNP and get Labour. And an English nationalism stoked up by David Cameron: warning vote Labour and get SNP.


“Unsurprisingly, forced into an artificial contest between English nationalism and Scottish nationalism, many Scots, including many no-voting Scots, chose the SNP. And let’s be clear: it wasn’t just in Scotland that the SNP cost Labour votes.”

 ちなみに「ナショナリスト」は日本では国家主義者だが、英国では北アイルランドが好例だが、「ナショナリスト」は英国から分離を主張する地域の民族主義者のことを意味する。逆に「英国はひとつ」を主張するのは「ユニオニスト」と呼ばれる。


 ガーディアン紙には、SNPを利用して労働党つぶしを画策した人物として、オーストラリア人の雇われ選挙参謀Crosbyなる人物を紹介していたので、紹介してみる。


In Australia, Crosby and his longtime business partner and collaborator Mark Textor also honed their electoral technique of “wedge politics”: finding an issue that can be exploited to split off an opponent’s traditional supporters. With typical shrewdness and ruthlessness, Crosby identified the surge of Scottish nationalism in recent years as a wedge that could be used against Labour, both in Scotland and in England.


 「二つのナショナリズム」を利用する戦略は、まんまと成功した。しかし、保守党の内部からは、「今回の戦略は、スコットランド内の親英派を損ない、またイングランドナショナリズムをあおったため保守党が急進的な右派路線に傾きかねない。近視眼的で長期的にみれば危険なゲーム」との懸念も出ているそうだ。