アントニオ・ロペスの超絶写実

 その絵の前から離れては戻り、また離れては戻る。会場で、これを何度繰り返したことか。それほど、その絵から立ち去りがたかった。「その絵」とは、アントニオ・ロペスが描いた「グラン・ピア」だ。


 画像で見ると写真に見えるかもしれない。しかし、近寄って見ると、細部には筆のタッチが残っている。細部の緻密描写を積み上げてリアリズムを目指しているわけではないが、圧倒的な実在感がひしひしと伝わってくる。


絵の周辺に人がいなくなった瞬間、五メートルほど前から絵に向かって歩いてみた。そのまま絵の中に入り込み、マドリードの路上に通じるような錯覚に陥った。画集も絵ハガキも買ったが、本物から伝わってくる実在感がまるで違う。


 以前、グスタボ礒江や犬塚勉でも感じた「到達点としての写実」の底深い力を、また体感できた。東京展は終わったが、長崎、岩手と巡回する。機会があれば、ぜひご覧ください。