橋下発言、欧米の受け取り方は

 従軍慰安婦に関する橋下発言が大きな波紋を呼んでいる。橋下は、「表現が」だったと一部陳謝し、重点を「欧米は自分たちも同じような慰安婦システムを持っていたのに、日本だけが非難されるのは不公正。これを訴えたかった」と主張している。また、「従軍慰安婦制度を正当化しているのではなく、あの時点での必要性はあったが、もちろん繰り返してはならないと思っている」と弁明している。さらに、「強制連行があったかどうかは非常に重要。これが証明されれば私が間違っていた」とフジテレビで発言していた。

 メッセージ、特に政治的なメッセージは、伝えたい相手に伝えたいことをキチンと伝えることが重要になってくる。橋下の本意からすれば、今回の場合、欧米諸国に対し「自分たちも従軍慰安婦を持ちながら、自分のことは棚に上げて日本だけを非難するな」と反論したかったことになる。果たして伝わったのか。


 世界的な発信力を持つ欧米メディアの代表として、CNNとBBCの報道をみてみよう。

 http://edition.cnn.com/2013/05/14/world/asia/japan-hashimoto-comfort-women/index.html


 http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-22564349

 CNNの見出しは、「日本の政治家が、戦時の性奴隷を『必要』と表現」であり、「私は許されないと思っているが、当時の状況では必要とされていた」という橋下の「真意」はまったく伝わっていない。

 BBCは、「慰安婦は必要」との橋下発言を現在形で引用しており、これも彼の主張する「真意」とは逆になっている。
"If you want them to have a rest in such a situation, a comfort women system is necessary. Anyone can understand that."


「欧米もやっただろう」の点は、CNNが「not unique to Japan」で、BBCが「He also claimed that Japan was not the only country to use the system」であくまでも「日本だけじゃない」との一種の開き直り発言の扱いで、欧米へ自己批判を迫る意図はまったく効果をあげていない。


 橋下が日本政府の責任との関連で重要視している強制連行の有無についても、CNN、BBCとも、20万人との従軍慰安婦の数については推計としているが、「日本は占領地域の女性を強制的に従軍慰安婦にした」と留保ぬきで記事にしている。これを読んでいる世界中の膨大な数の読者は、「強制」は歴史的事実として確定しているとの印象を抱くことは間違いない。橋下は、「不当な誤解を正すことが発言の趣旨」としているが、これでは「不当な誤解」を国際的に拡大しただけだ。


 橋下は、「誤報したメディアが悪い」と反論しているが、こうした事態は十分に事前に予想できることだ。ましてや、橋下は、これまで幾多のメディアとの攻防戦をくぐりぬけてきた経験がある。もし国際的な誤解の払拭が最大の目的だったとしたら、大阪市役所のぶら下がり会見で言うテーマではない。十分な下準備をしたうえで、東京の外国人特派員協会などで、自分で英語で説明するなり、きちんとした英語通訳を通じて主張するべきだった。


 おそらく、橋下も今回のミスには気がつき、「やり方がまずかった」と反省しているだろう。

 メッセージというものは言葉だけではない。言葉を厳選し、論理的に組み立てて行っても、言葉とは別に、発言した時の表情、態度、イントネーションなどから、受け手はメッセージの真意を理解する。

 たとえば「沖縄の女性の人権を守るために米司令官に風俗利用を提案した」といった弁明は、沖縄の女性にどう受け止められるのかを事前に配慮した上での発言なのか。


 ここまでくると、もはや「やり方」の問題ではない。