牧野邦夫の「自我像」

 練馬区立美術館で「牧野邦夫展」を観る。


 タイトルに「写実の精髄」とあったが、牧野の作品にあるのは、「己を目だけにして、事物に迫る」という意味での「写実」ではない。

 若い頃から早い晩年まで、自画像が多い。

 自画像の名手であるレンブラントを生涯の師としたが、レンブラントの自画像には、醜さも含めて自己を「他者」として観察する冷徹さがある。比べて、牧野の自画像には、意地悪な言い方をすると、「イケメン画家のナルシズム」を感じた。執着する「自我」が、いつまでたっても昔の「自我」のままとどまっている印象を受けた。いわば、自画像ではなく、自我像。「他人のナルシズム」ほど胃にもたれるものはない。

 ただ、作品にはただならぬ発信力の高さがあった。観ている間、作品から両肩をつかまれている感じがした。特に、大きな物語を感じさせる「未完の塔」や、体温が伝わってきそうな生々しい裸婦像には、揺さぶられた。