2012年の「この3冊」

 なんだか最近、このブログで本の紹介をしてばかりいる。

 「いつか読みたい本」を忘れないための備忘録が主目的だが、「自己表現」への関心が薄れつつある最近の心情の反映かもしれない。そして、読んでくれたごく少数のうちのさらにごく少数の人にとって何かの役に立つかもしれないとの思いもある。

 机の整理をしていたら、昨年の新刊を総括した新聞記事を見つけた。読みたい気にさせる短評がついた未読の本を紹介します。


「天体による永遠」(オーギュスト・ブランキ岩波文庫
 〜19世紀フランスの革命家の「天体」論。33年も獄中にあった不屈の闘士が独房の闇から、宇宙の生成、発展を解く。「宇宙は、いたる所に中心があり、表面がどこにもない、一つの球である。こんな本があるのだと知るだけでも、宇宙を知ることになるのかもしれない。(荒川洋治


「世界が土曜の夜の夢ならーヤンキーと精神分析」(斎藤環角川書店
 〜「徹底して現状肯定的であること」とか、「気合とアゲアゲのノリさえあれば、まあなんとかなるべ」とか、なるほどと納得のフレーズが山盛り。相田みつを橋下徹に通底するものの背後に、ぼくは日本に固有の反知性主義を読み取った。(池澤夏樹


「偏愛ムタラ美術館―発掘篇」(村田喜代子平凡社
 〜村田にとって絵画は「一回きりの網膜の事件」であって、遭遇して、あっけにとられ、とまどい、惹かれ、考えた。型破りの才能がカミソリのように鋭い感性で捉えてある。(池内紀



「故郷の本箱―上林暁 傑作随筆集」(上林暁、夏葉社)
 〜上林の筆には不思議な「こく」がある。「憤激や昂奮の高ごえ」を出さない人を扱うとき、魂の隠し味が効いて、それがとくに顕著になる。(堀江敏幸


「『マルタの鷹』講義」(諏訪部浩一、研究社)
 〜ハードボイルドの古典をひたすら愚直に徹して精読しつくした。著者に嫉妬をおぼえるほどの力作である。(若島正


121209、毎日新聞、「2012年、この3冊」

 このなかでは、上林暁が特に気になる。