死んだら死んだで生きていく

 久々に詩をひとつ。

痛いのは当りまえじゃないか
声をたてるのも当りまえだろうじゃないか
ギリギリ喰われているんだから
おれはちっとも泣かないんだが
遠くでするコーラスにあわして唄いたいんだが
泣きだすこともあたりまえじゃないか
みんな生理的なお話じゃないか
どてっぱらから両脚はグチヤグチヤ喰いちぎられてしまって
いま逆歯がむねんところに突き刺さったが
どうせもうすぐ死ぬだろうが
みんなの言うのをフフンと笑いして
こいつの尾っぽに喰くらいついたおれが
解りすぎる程当然こいつにくらいつかれて
解りすぎる程はっきり死んで行くのに
後悔なんてものは微じんもなかろうじゃないか
鳴き声なんてものは
仲間よ安心しろ
みんな生理的なお話じゃないか
おれはこいつの食道をギリギリさがってゆく
ガルルがやられた時のように
こいつは木にまきついておれを圧しつぶすのだ
そしたらおれはグチヤグチヤになるのだ
フンそいつが何だ
滅多に死ぬか虎のふんどし
死んだら死んだで生きてゆくのだ
おれのガイストでこいつの体を爆破するのだ
おれの死際に君たちの万歳コーラスがきこえるように
ドシドシガンガン唄ってくれ
しみったれ言わなかったおれじゃあないか
ゲリゲじゃあないか
満月じゃあないか
十五夜はおれたちのお祭りじゃあないか


   「ヤマカガシの腹の中から仲間に告げるゲリゲの言葉」
          「第百階級」から、草野心平詩集(岩波文庫


 原文は旧仮名遣いで読みにくいかもしれないので、現代仮名遣いに変えました。


 「死んだら死んだで生きてゆくのだ」。なんだかバカポンのパパが、死ぬ間際に言いそうな名ゼリフだ。


 カエルがヘビに喰われている深刻な場面だが、カエルはそれを「みんな生理的なお話じゃないか」と突き放し、「フンそいつが何だ 滅多に死ぬか虎のふんどし」と笑いとばす。


 体内の日頃使わない部分が、これを読んでいると反応してきた。まだ、おれもなんとか正常だ。自身の正常度をチェックできる貴重な作品だ。