続「みすず」アンケート

 久々に「みすず」の読書アンケート特集の続きです。最初は、今年は不作かと思っていましたが、読み返してみると、食欲がわいてきそうな本がいろいろありました。<>内は、風船子による自註です。


・松沢弘陽校注「新日本古典文学大系・明治編10 福澤諭吉集」(岩波書店
〜この詳密な「福翁自伝」校注本の登場は、出版会と思想史学会にとっては(あるいは慶応義塾にとっても?)大震災以上の事件のはずである。(苅部直
<なぜそんなに大事件なのか、もう少し素人に説明してほしい・風船子注>


・樋口幸子「珈琲とエクレアと詩人―スケッチ・北村太郎」(港の人)
〜たぶん今年読んだもっとも薄い本で、もっとも心に残った一冊。詩人の晩年のすさまじい孤独と、それと裏腹のしずかな幸福が、しんと沁みてくる。(苅部直


國分功一郎「暇と退屈の倫理学朝日出版社
〜平成新教養主義とでも呼びたくなる若い人文社会系学者たちのリーダブルな書物が数多く出版されているが、これが出色だと思った。ハイデガーの「形而上学の諸概念」を退屈論の最高峰として捉え、これを同僚ユクスキュルのダニの環世界論を利用して批判したうえで、ドゥルーズの議論へと接続していく。面白い。(長谷正人)

<この著者の「スピノザの方法」も他の評者があげていた。その評者(十川幸司)は「著者をはじめとする一群の若手研究者の活躍は、かつてのニューアカとは趣が異なった思想の潮流を形成しつつある」としている。風船子注)

・編集グループSURE「北沢恒彦は何者だったか?」
〜数奇な生涯を生きて六十五歳で自死した自分の父親について、作家の黒川創が親戚・友人をインタビューし浮き彫りにした。距離感が絶妙。(大竹昭子


・朽木ゆり子「ハウス・オブ・ヤマナカー東洋の至宝を欧米に売った美術商」(新潮社)
〜山中商会についてまとまった刊行物としては、本書が唯一、最初のものとなるだろう。(村田宏)


・猪野修治「サイエンス・ブックレビュー 科学技術は倫理を語りうるか」閨月社
〜高校の物理学元教員にして在野の科学史家による書評集。著者は一作一作を丹念に読み込んだうえで平明に詳解し、歯に衣を着せぬ批評を施す。絶やしてはならぬ真摯な書籍の象徴。(小松美彦


・坂井隆史「通天閣―新・日本資本主義発達史」青土社
〜大阪、通天閣界隈の路地の破天荒な「パサージュ論」。細部が何と生き生きとして、桁外れに面白いことか。(十川幸司


 今日は、とりあえずここまで。昨日の金環日食観察は得難い体験だった。