みすず「読書アンケ」(1)

 毎年、発売直後にブログで紹介している「読書アンケート特集」(みすず書房)だが、今年は紹介が遅れてしまった。震災の影響で、「今年は本をよむ気分にならなかった」との回答も目立ち、また震災関連本の重複が多かったこともあり、内容的に今一つインパクトがなかったのも遅れの一因。それでも、食欲のわく本はいろいろありました。数回にわけて紹介します。

・長堀祐造「魯迅トロツキー〜中国における『文学と革命』」(平凡社
魯迅文学論の知られざる側面に光を投じた労作。文学の政治からの独立を訴えたトロツキイの文学論は今こそ甦るべきであろう。(評者・佐々木力)


藤井貞和「日本語と時間―<時の文法>をたどる」(岩波書店
〜古代人は過去を表わすのに、「き」、「けり」、「ぬ」、「つ」、「たり」、「り」など、少なくとも六種の<助動辞>を使い分けていた。それが現代では「た」一語で表現される。これは、便利になったということであろうか。(上村忠男)


藤井貞和源氏物語の始原と現在」(岩波現代文庫
大和朝廷が地方の豪族を配下に治めてゆく過程が私にはとてもリアルでやけに腹立たしかった。(保坂和志


佐藤剛上を向いて歩こう」(岩波書店
永六輔の歌詞が、六〇年安保の「悲しみ」を歌っていたとは。(細川周平


・山口昌哉「カオスとフラクタル」(ちくま学芸文庫
〜これを読んだら、他のカオス論の解説書がわかるようになった。(加藤尚武


開沼博「『フクシマ』論―原子力ムラはなぜ生まれたのか」(青土社
原発立地場所の現地調査に基づく分析。原発「推進/反対」から「愛郷/非愛郷」へのコード転換が、このムラの指導者の転向を生みだした過程の指摘は鋭い。(石田雄)
※思えば、生まれた初めて購入した新書が、中学の時に買った「平和の政治学」(石田雄、岩波新書)だった。あれから半世紀たつが、石田雄、健在。長生きしてください。(風船子)・石山修武「世田谷村日記」、難波和彦「神宮前日記」(いずれもブログ)
〜数種のブログを毎日愛読しているが、石山のものなどは、荷風の「断腸亭日乗」にも匹敵する名作ではないか。(鈴木博之


 このなかでは、藤井貞和の2冊が一番気になるかな、というところ。


※先日の出張で撮ったフィレンツェの写真をアップします。雨上がりの石畳、イタリアで好きな光景のひとつです。写真をクリックすると大きくなります。