回廊で「石と時間」を想う

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 時差ぼけで5時半に眼が覚めた。


 一週間の出張で、フィレンツェ、パリ、ブリュッセルを駆け足でまわってきた。強行軍でくたびれたが、日本を出ると、なんだか呼吸が深くなって、落ち着く気がする。


 フィレンツェではTシャツが目立つほどの陽気だったが、パリではみんなコートを着て歩いていた。パリで聞くと、1週間前は汗ばむ陽気だったとか。


 今回の収穫は、公開が不定期なため、これまで行けなかったポンテ・ヴェッキオ橋の上にあるヴァザーリの回廊を渡れたことだ。この回廊は、16世紀半ばにメディチ家の当主コジモ1世の命で作られたもので、メディチ家の住居であったピッティ宮殿と政務所(現ウフィッツィ美術館)を結ぶ秘密の回廊。この回廊には、700点の肖像画が並び、小さな窓からはアルノ川が見える。


 日本で言えば、室町末期の戦国時代にあたるが、石造りの回廊は21世紀の今でも、数百人が一度に渡ろうとびくともしない。フィレンツェ中心部は厳しい建築規制のため、ほとんど街並みは変わっていないはずだ。回廊の窓からの眺めも、400年前と大差はないだろう。


 そういえば、パリで招待されたフランス人のアパートは、1610年建造、つまり江戸時代が始まったばかりの時にできたそうだ。築400年だったが、まったく普通に暮らしていた。


 そういえば、ローマ在住時代にオフィスとして使っていたアパートの大家から、「あなたは、新しい建物で仕事ができて幸運だ。なんたって、この建物は20世紀製だからね」と言われたことを思い出した。


 時間を守らないイタリア人に今回も泣かされたが、「まあ、石の家に住んでいれば、木の家に住んでいる人間と時間の感覚が違うのは仕方ないか」と言い聞かせ、イライラを呑みこんだ。