朝ドラ「カーネーション」の演劇性

NHK朝ドラ「カーネーション」を尾野真千子の演技に魅せられて毎朝、見ている。朝ドラを熱心に見るのは、何十年ぶりか。
 
尾野真千子の演技も凄いが、糸子(尾野真千子)と母親(麻生裕未)のメークが、ドラマの時間で20年間以上、ほとんど変わらない。3人の娘がどんどん大きくなり、今では四人姉妹のようにみえる。実年齢も、母親役の尾野真千子(30歳)は、長女・新山千春(31)、次女・川崎亜沙美(27)、三女・安田美沙子(29)の三人娘とほとんどかわらない。

普通なら、時間の経過を示すために老けメークをさせるところだが、このドラマでは、意図的に老けさせていない。不自然にも思えるが、連日、観ていると物語にこちらが入ってしまい、違和感がない。むしろ、わざとらしい老けメークをすれば、よほど不自然で学芸会のようにみえてしまうだろう。


 考えてみれば、男が女を演じる歌舞伎にしても、無表情の面をつけて喜怒哀楽を豊かに表現する能にしても、観客は男と知っていても女に見えるし、面の表情は変わらないのに泣き顔や笑い顔にみえてしまう。演者自身が対象の形を真似するのではなく、演技を通じて観る側に「本物」を感じさせてしまう、演劇空間の不思議さだ。


 おそらく視聴者からは、「なんでいつまでも若いんや。おかしいやんけ」と抗議の電話がNHKに何度もかかってきているはずだ。しかし、朝ドラ「カーネーション」における老けメークの拒否には、外見ではなく演技によって観る側を物語世界に引き込もうとする演出陣の覚悟を感じる。それは、高レベルの演者がいるからこそ成立する。

 ただ、尾野真千子が画面から消えた時点で、朝ドラ史上、異例の高い演劇性も消え去るのではないかと危惧する。