再臨、木村栄文

 渋谷でテレビドキュメンタリストの木村栄文の特集をやっていた。

 金曜、土曜の二日、映画館に通い、「記者それぞれの夏」、「鉛の霧」、「まっくら」、「あいラブ優ちゃん」、「苦海浄土」、「記者ありき 六鼓・菊竹淳」の6本を立て続けに観た。もう、うなるしかない。

 ドキュメンタリーのなかで、俳優が登場し、市井の人々と掛け合いを演じる。

 虚構と現実の融合。大半のドキュメンタリー番組が、ホントらしく装ったウソを使ってホントらしくみせようとしているのに対し、公然とウソを味付けにしてホントを撮ろうとしている。 重く苦しい素材が多いが、「笑い」が通奏低音のように響いている。

 40年前の夏休み、九州の実家で深夜、エーブンの番組を観た衝撃は今も、はっきり記憶している。地方のテレビ局でこんなこともできるのか、と興奮した。

 その後、テレビは自ら表現の可能性を投げ捨て、今日に至っている。短い絶頂期しか持たないまま、このまま覚醒しないまま、どこまで退行をつづけていくのか。

 木村栄文(1935年ー2011年)。元RKB毎日放送ディレクター。NHKの若いディレクターが、晩年、パーキンソン病にかかったエーブンを撮った番組を、昨年、死去直後に郷里で放映していた。今度は被写体になっていたが、「まじめなピエロ」ぶりは健在だった。


 エーブンの回顧展は、今後、全国各地を巡回するという。「表現」に関心を持つ若い人たちにぜひみてもらいたい。