「ヒミズ」、力技の人間賛歌

仕事は普通にこなしている(つもり)だが、まだ活字を読む気にはなれない。ショック療法のつもりで仕事帰りに「ヒミズ」を観た。

 園子温は、舞台を原作に従わず、大震災直後の被災都市に設定した。普通なら、「美談仕立ての人間賛歌」になるところだが、園はタダモノではない。次から次と悪いヤツがぞろぞろ出てきて、主人公の男子中学生を殴りまくる。主人公の中学生の父親は、息子に向って「おまえなんかいらねえんだ。早く死んじまえ」と怒鳴り散らす始末だ。

微温的な社会的約束事が溶解した世界で、中学生の男女二人は相手から逃げない、そして、逃げない分だけ苦しむ。

主人公役の染谷将太二階堂ふみの二人は、この作品の演技でヴェネチア国際映画祭の最優秀新人俳優賞をW受賞した。正確に言うと、二人の芝居は、「仕事としての演技」ではない。「恋の罪」でも感じたが、園監督は、演技経験の浅い役者を役に「憑依」させる名人だ。反面、演技派といわれる役者の方が分が悪い。

 
 ドマジな青春映画であるが、人間の基底部をむき出しにして観客に突き付ける、大人に対する挑発の映画でもある。そして、救いようのない部分も含めて、「正しさ」に向けてあがく人間を肯定している。その意味では、人間賛歌の映画でもあった。