女怖し脂濃い地獄=「恋の罪」

昭和の色濃い地下映画館「銀座シネパトス」で映画「恋の罪」(監督・園子温)を観る。この小屋にふさわしい、濃厚な味の一品だった。


 制度(結婚)から逸脱する女性たちの強烈な性愛がテーマ。この脂っこいテーマを脂っこい演出と映像で料理した作品なので、中盤あたりで胸やけ気味になってきた。そのせいか、隣席の中年男性は、途中で席を立ってしまった。ただ、中盤から終盤にかけて女優陣の迫力が加速して、席を立てなくなり、そのうち胸やけが吹き飛ばされてしまった。特に貞淑な妻から売春婦に転落する神楽坂惠の演技はグラビアアイドル出身とはとても思えないほどの熱演で、ほとんど憑依に近いものがあった。演技も含め「女の怖さ」を堪能、かつ、痛感した。


 「言葉なんか覚えるんじゃなかった」という田村隆一の詩に、カフカの長編小説のタイトル「城」も、キザにならずに劇中で上手く使われていた。


 全般にセリフ回しが舞台での芝居を連想させ、「スクリーン上の舞台劇」の印象を持った。この舞台風味が、ドロドロ愛憎劇のリアリズムを中和させる効果(少々だが)をあげていた。


 監督の園子温は、「冷たい熱帯魚」などで鬼才と呼ばれている。当方、最近まで「そのこ・おん?女性?」と思っていた。まったく無知は恐ろしい。


 ともあれ、ガッツリ感のある力作だった。揚げ物を控えて、「ヒミズ」も観てみるか。