貴重な暴露本、「狡猾の人」

「狡猾の人」(森功幻冬舎)を読了。


 防衛省事務次官の証言による防衛疑獄の内幕本。防衛産業をめぐる日米関連企業や防衛族国会議員の駆け引きや暗躍は、軍事機密のベールに覆われ通常はなかなか表面化しない。本書は、防衛省事務方トップの事務次官経験者が自分の経験を直接証言してその内幕を暴露した貴重な記録だ。特に商社による官僚組織への食い込みや自民党防衛族の生態は、当事者ならではの具体性を持っていた。さらに、ここにも、米国に押されっぱなしの「劣化した官僚組織」の一例が如実に示されていた。


 ただ出版の経緯には疑問も残った。


 著者の森功は、幻冬舎の仲介で守屋本人の申し出を受け、守屋に長時間のインタビューを行い、その原稿をまとめて初稿を守屋に渡した。しかし、その後守屋からの連絡が途絶え、ある日、守屋本人と長女が幻冬舎にあらわれ「出版はやめてほしい」と要求してきた。森は、「出版は合意の上で進めていた。突然の出版中止要請は契約違反」と憤慨する。森は、「長男の非行など家庭崩壊の記述に家族からの反対があった」、「インタビューでの告白と公判での証言が相違した」などを守屋の突然の翻意の理由として挙げている。

 問題は、守屋の反対から出版までの経緯が本書にないことだ。

 本書のタイトルは「狡猾の人」。副題は「防衛省を喰い物にした小物高級官僚の大罪」。帯には「ズルい男が権力を握る国の悲劇」とある。序文でも、「責任逃れの弁明、巧みな保身…」と人格的非難の言辞が続く。とても本人の同意を得ての出版とは思えない。「家庭崩壊」というプライベートな部分の暴露も含め、本人の合意なしの出版は、法律的に問題はなかったのか。守屋サイドは出版差し止めの訴訟を考えなかったのか。

 気になるところだ。