ささやかに、記念日

 今日は小生が初めて大気に触れてから「半世紀+α回目」の記念日。

 別に感慨はない。出勤前に机に座る。まとわりつく湿気。風はない。微動だにしない葉をまとった木々は静止画のようだ。

 たった一つの本棚から、詩集「嵐の前」(井坂洋子)を抜き出す。

不思議の国のアリスのように地下の部屋が伸びていて

穴におちたら

そこはふしぎでもなんでもなく

東京の地下街

首の上にのぼる血の 金属的な音を耳の底に聞きながら

膝を深く折り 貝のように体をまるめていた

太陽も取り引きにやってこない

精霊よ この日を段ボールですごすことをお助けください

うららかな表通りでは 女の人が赤ちゃんを見かけ

「体のなかからお湯がでてくるみたいな気持になるわね」

夥しい数のへそが行き交っていた


「へそ」


 いい年して、誕生日に詩集かよ。