原田芳雄が逝った

 昨日の朝、俳優の原田芳雄が亡くなった。


 芸能人の生き死にに個人的に反応することはほとんどないが、原田芳雄死去の報には心が騒いだ。理由は簡単だ。私がファンだからだ。ファンといえる俳優は、これで全滅したのではないか。


 原田芳雄を最初にテレビで観た最初の記憶は、たしかテレビドラマ「二丁目三番地」だったと思う。石坂浩二と浅岡ルリ子の交際のきっかけになったドラマとして有名だったが、とにかくテレビの小さな箱の中に、人間が泣いたり笑ったりしている本当の街があるように感じた。あのリアリティの質には、驚いた。脚本は倉本聡か。このドラマのなかで、たしか原田は二階に下宿する気象台勤務の予報士を演じていたと思う。模型の電気機関車が趣味で、畳の上か、天井裏か、レールを敷いて模型電車を走らせている姿が記憶に残っている。なにせ40年ほどの前なので、記憶違いの可能性は高いが…

 20年ほど前には、横浜のライブハウスで原田芳雄のコンサートにも行った。経緯は忘れてしまったが、原田芳雄の奥さんと名刺交換をしたような記憶もある。あんなに歌がうまいとは思わなかった。「寝盗られ宗介」で歌った「愛の賛歌」に感激し、レンタルビデオから録音したこともあった。


 ナルシズムと無縁のダンディズム。気負わず、飄々、淡々としながら、譲らないところは譲らない…実像はどうだったか知らない。ただ、ナルシストが、死の直前、別人のようにやせ細った病身で人前に出てくるとは到底思えない。

 そもそも俳優の実像なんて、どうでもいい。自分の日常世界では会ったことのない理想の人物が、実際にいるような錯覚を抱かせてくれることーそれが、俳優の重要な仕事のひとつだ。その意味で、原田芳雄は私にとっては大事な俳優だった。

 「自分も含めくだらない連中ばかりだが、少なくとも原田芳雄がいる」と、ときどき、思ったりもした。大げさだが、うそではない。今からは、この世のどこにも原田芳雄がいない日常を、生きていかなくてはいけない。
 
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/6771/yoshio18.htm