北朝鮮は中国固有の領土?

 毎日新聞に興味深い記事が載っていた。

 朝鮮民謡「アリラン」が中国の無形文化遺産に指定され、韓国世論が憤激している。


 アリランは地方によって違う。中国が無形文化遺産にしたのは、吉林省延辺朝鮮族自治州に伝わる「延辺アリラン」だ。しかし韓国の怒りは収まらない。背後に高句麗問題があると疑っているからだ。


 高句麗は7世紀に滅亡するまで、今の中国遼寧省吉林省から北朝鮮にかけて勢力を持っていた。中国は数年前に中朝国境の歴史を対象にした「東北プロジェクト」をまとめ、「高句麗は中国の一地方政権」と定義した。


 単純化すると、高句麗は中国皇帝の支配する領域であり、高句麗王は皇帝の代理人として統治したということだ。つまり朝鮮半島の北緯38度線までが中国の領域だった。それ以南の新羅百済は夷狄の地である。


 韓国にとっては驚天動地の歴史認識だ。韓国人は、高句麗天孫降臨神話に登場する朱蒙を韓国の始祖と考え、高句麗新羅百済、高麗、李朝朝鮮という歴代王朝の延長上に韓国があると信じている。

 
 中国の歴史認識に立てば、国際的に孤立した北朝鮮を庇護するのも、旧高句麗に対する保護国意識とみればわかる。もし北朝鮮が崩壊したら、北朝鮮の住民は同じ高句麗人同士として中国の延辺と合併したいと思うかもしれない。

 
 2004年、中国と北朝鮮がいっしょに「高句麗古墳群」などを世界遺産登録した。北朝鮮は単独で登録しようとしたが、中国が強引に合同申請させた。北朝鮮高句麗史を代表するのを許さなかったのである。


110630、毎日新聞朝刊、金子秀敏


 領有権というのは、結局、歴史的正当性というよりも、現時点での国力で決まるケースが多い。米国における先住民の現状をみればよくわかる。しかし、なにがしかの歴史的正当性があるに越したことはない。将来の北朝鮮崩壊を視野に入れて、中国は「北朝鮮は歴史的中国領」との地ならしをしているのか。

 それにしても、最近の中国政府の全方位お騒がせ外交は、なんだかタガが外れかけている。