健康人にもがん細胞が…

「がんの練習帳」(中川恵一、新潮文庫)を読む。この種の本は、情報が命だ。この本は、読みやすく、具体例も豊富だった。情報部分の要約を並べてみる。

日本人の2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで死ぬ。ガンの半数以上は治癒するが、それでも65歳以上の2人に1人がガンで死んでいる。これは世界一の高率。

 ガンは遺伝子の本体であるDNAのコピーミスで起きる。人体は60兆個の細胞でできており、毎日8000億個の細胞が死んでいる。死んだ細胞の数だけ、細胞のコピーである細胞分裂で新しい細胞が生まれている。ところが、毎日数億回もコピーミスが起きる。このコピーミスがなければ、いまだに生物は単細胞のバクテリアのままだった。つまり、コピーミスは「進化の原動力」でもある。


 コピーミスで生まれた細胞は「出来そこない」で、ほとんどは生きていけない。しかし、なかにはとめどなく細胞分裂を繰り返す「死なない細胞」が生まれることがある。この代表選手がガン細胞である。寿命が延びれば、この確率が増えてくる。


 健康な人でもガン細胞は1日5000個も発生しているが、通常は免疫細胞(リンパ球)に退治される。しかし、ガン細胞はもともと自分の体の正常な細胞から発生しているので、細菌に比べると免疫細胞が「異物」と認識しにくい。加齢によって免疫力も衰えるので、ガン細胞を見逃すことも増えていく。
 つまり、DNAのコピーミスで生まれた「不死細胞」を免疫細胞が殺し損ねたものが、ガンになる。



 乳がん卵巣がん、大腸がんの一部には遺伝に関係があるが、遺伝するガンはガン全体の5%程度しかない。遺伝より生活習慣の方がはるかに影響が大きい。


 
「高齢者がガンになりにくい」というのは迷信。がんの主原因は「細胞の老化」なので年齢とともに増えていく。


 食べ物の焦げにはベンゾピレンという発がん性物質が含まれているが、どんぶり一杯の焦げを毎日食べない限り問題なし。


 男性の場合、おおまかにいって、ガンの原因の3分の1がタバコ、もう3分の1が過度の飲酒などの生活習慣、残りの3分の1は防ぎようのないもの。


 1つのガン細胞が1センチになるのには10年以上かかる。しかし1センチが2センチになるには1年しかかからない。


 ガン治療のなかで科学的に効果が確認されているのは3つだけ。手術、放射線治療、化学療法。このうち白血病など一部をのぞき、完治させられるのは手術か放射線治療しかない。


 放射線治療の専門医は、米国は5000人いるのに、日本は約600人しかいない。


前立腺ガンは治りやすいガンの代表。80歳の男性では約4割に前立腺がんがある。前立腺ガンと前立腺肥大は全くの別物。前立腺肥大症がガンになることはない。


私たち人類を含め、哺乳類の体は「女性型」が基本。男性は、男性ホルモンによって「男性型」に変えているにすぎない。そのため、がん治療でホルモン療法を受けると男性は基本にもどっておっぱいが膨らんでくる。

 日本の「がん死亡者数」の統計は、死亡診断書をもとに算出されている。しかし、日本では「がんは遺伝病」との誤解がまだ根強いため、がん家系と思われないため、死亡診断書に「がん」と書かないでほしいという遺族も多い。この場合は「多臓器不全」と記載されることが多い。


そもそも死亡診断書は、戸籍に関するデータであり、医学データではない。結核や梅毒などの感染症は保険所に届け出る義務があり、データは正確。最大の国民病であるがんに立ち向かうためには、がん患者の診断情報、治療方法などを登録する「がん登録」の整備が必要。韓国や台湾ではすでにがん登録制度が整備されている。日本ではがん登録は13%だが、韓国、台湾は制度が確立しておりほぼ100%登録されている。