傍観者の原罪

「ヤノマミ」(国分拓、NHK出版)読了

 
 以前、書評紹介で取り上げた「ヤノマミ」(国分拓、NHK出版)を読了。テレビドキュメンタリー制作のため、石器時代の生活を色濃く残すアマゾンの先住民の村に150日間暮したNHKディレクターのルポだ。

 ※参照http://blogs.yahoo.co.jp/soko821/25592987.html


 本を書くのは、映像人の余技と思っていたら、良い意味で予想を裏切られた。衝撃的な直接体験を文章にしようとすると、感情過多の文体になりがちだが、て、簡潔に淡々と書かれている。これはできそうで、できない技だ。


 この村では、おそらく人口調節のため、母親が時に産まれたばかりの赤ん坊を自分で殺すことが習慣として認知されている。生かすか殺すかは、母親の決断にかかっている。以下は、14歳の母親が生んだばかりの子供を殺す場面だ。


 ついに産まれたのだ。四十五時間眠らず、痛みで泣き続けた末に、ローリーは子供を産み落とした。不覚にも涙が零れてきた。よく頑張ったね、と祝福してあげたかった。だが、それは僕の尺度で推し量った勝手な思い込みに過ぎなかった。


 子供は手足をばたつかせていた。ローリの母親が来て、産まれたばかりの子どもをうつぶせにした。そして、すぐにローリのそばから離れた。周囲にいる女たちの視線がローリに集まった。


 一瞬嫌な予感がしたが、それはすぐに現実となった。暗い顔をしたローリは子どもの背中に右足を乗せ、両手で首を絞め始めた。とっさに目を背けてしまった。すると、僕の仕草を見て、遠巻きに囲んでいた二十人ほどの女たちが笑いだした。女たちからすると、僕の仕草は異質なものだったのだ。失笑のような笑いだった。僕はその場を穢してしまったと思った。視界に菅井カメラマンが入った。物凄い形相で撮影を続けていた。

 

 赤ん坊の遺体は、バナナの葉にくるんでシロアリの巣に入れられ、しばらくすると跡形もなくなるという。