死んで元気になる

新聞各紙書評欄紹介、まだ続きます。

「孤独の部屋」(パトリック・ハミルトン、新人物往来社

 
 ロンドンはうずくまる怪物。どんな怪物でも息をせずには生きられないから、ロンドンもこっそり有害な呼吸をしている。生きていくのに必要な酸素は、郊外からの通勤者である。列車と終着駅からなる果てしなく入り組んだ呼吸器を通って、毎朝有象無象の男女が怪物の鬱血した巨大な肺に吸い込まれ、何時間もそこに留まったのち、やがて夕方になると同じ経路で乱暴に吐き出される。

 
「英国小説のふところの深さを見せつけられる」(書評・若島正


 郊外からの通勤者が「酸素」で、都心が「怪物の鬱血した巨大な肺」。なるほどね。


アイヌの世界」(瀬川拓郎、講談社選書メチエ) 書評・海部宣男


 アイヌは、「カムイ=神」に対する人間の意味。アイヌ語は同系の言語が見当たらず、系統不明な言語。北のアイヌは、南の旧沖縄人とともに縄文人の流れを濃く汲む人々で、大陸から稲作文化を持ち込んだ人びとによって南北に追われたという説がある。
しかし琉球語は旧い歴史時代の日本語を祖語とするのに対し、アイヌ語は失われた縄文語を基礎とする。アイヌはある時期、「オホーツクのヴァイキング」だった。モンゴルの大軍をサハリンで迎え撃ったこともあるという。

 最北と最南は、「中心幻想」を相対化するためには、つねに意識される必要がある。特にこの国では。

十歳で死んだ
人生の最初の友人は、
いまでも十歳のままだ。


病に苦しんで
なくなった母は
死んで、また元気になった。


「詩ふたつ」(長田弘、クレヨンハウス)


「死んで、また元気になった」って。

 〜「残された者」の勝手な理屈だが、この世には「残された者」しかいない。その一人として、亡き父の元気だったころを想い、「そうだよな」とつぶやく。