謹賀新年と暗黒物質

明けましておめでとうございます。


 子供時代から、儀式一般には人為臭が鼻について冷笑的だった当方も、年末年始は主役が「時」ということもあって初詣などの関連行事には率直に参加してきた。いつもと違う時間の流れ…これも人為的であることはわかってはいるが、でも、たまにはいいじゃない。悪い気はしない。


 年末年始の良さは、いつもよりも時間の単位を長くとって考えやすくなる点にある。今日や来週ではなく、「今年は…」などと年単位で考える。いつもと違う「単位」でモノを考えてみることは、手軽で効果的なストレス解消、ささやかな解放感をもたらしてくれる。英語では、 matter of scale っていう表現がありましたっけ。


 そこで年初の一冊に選んだのが、「宇宙は何でできているのかー素粒子物理学で解く宇宙の謎」(村山斉、幻冬舎新書)。日常生活の単位からかけ離れたお話で、スケーリングを変えるには格好の本である。宇宙論の一般向け解説書はたくさんあるが、この本の強みは、研究の最前線にいる現役研究者が、最新の宇宙論を紹介してくれる点にある。しかも、なかなか読みやすくできている。


さわりを少しだけ紹介します。

 学校では「万物は原子からできている」と習いますし、確かに地球以外の星も原子でできています。しかし実は「原子以外のもの」が、宇宙の96%を占めているーそのことがわかったのは、2003年のことでした。

 では、この96%は何なのでしょう。残念ながらまだわかっていません。ただし、名前だけはついています。その一つが、「暗黒物質(ダークマタ―)」です。

 地球を含む太陽系自体は、宇宙の大海原を1時間に約80万キロの猛スピードで進んでいます。しかし、太陽系は天の川銀河全体の重力に引っ張られて、さまようことはありません。ところが、天の川銀河全体の星やブラックホールなどをすべて集めても、太陽系を引き留めておけるほどの重力にはならないのです。星以外の「何か」の重力があるはずです。それが暗黒物質です。
暗黒物質は宇宙全体に偏在しており、それが宇宙の全エネルギーに占める割合は約23%、原子のおよそ5倍です。光り輝く星たちが主役だとばかり思っていた銀河系ですが、実のところ、暗黒物質の溜まり場のようなもの。そこに星がちょっと混ざっているのが、銀河系の実体です。

原子と暗黒物質を足しても、まだ全エネルギーの27%。宇宙の残りはなんなのよ。

残りも名前だけはついていて、「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれています。暗黒物質は原子とはまったく違うものの、宇宙が膨張すれば密度が薄まり、それなりに「物質」らしく振舞います。ところが暗黒エネルギーは、宇宙がいくら膨張しても密度が薄まりません。

ビッグバンで始まった宇宙の膨張は、ボールを思い切り真上に投げたようなものです。最初に加えたエネルギーがすべてなのですから、少しずつスピードが落ちていくのが当然です。ところが、宇宙の膨張が「加速」している事が最近わかりました。そうだとすると、「投げたボール」を透明人間のような何物かが後ろから押しているとしか考えられません。その「何者か」が暗黒エネルギーだと考えられています。

 ただただ「はぁー」とつぶやきながら読むしかないが、人間が置き去りにされる快感はある。ただ、この理論も、物理学の公理を前提にしているわけでしょうね。「公理」を疑う余地は、原理上ないのでしょうが、このあたりに人間臭さがちょっとする感じがする。