14歳母親、子供を絞殺して笑う

新聞の書評欄で興味深い本を知った。
 


 もし生まれたばかりの嬰児の背中に足を乗せて首を絞める14歳の母を見たら、どう思うだろうか。我々の社会では犯罪と呼ばれるその場に立ち会った著者が思わず目を背けると、女たちは笑い出した。

 本書は、アマゾンの広大な盛に生きる先住民ヤノマミ族と150日にわたり同居した記録である。


 母親は自ら殺めた嬰児をシロアリの巣に入れる。皮も骨もシロアリに食べられ、数週間で跡形もなくなる。この集落では年間20人ほどの子が生まれるが、半数はそのようにして葬られる。生まれたばかりの子供は精霊であり、人間にするかどうかは女性が選択するのだ。家族関係や狩りで確保できる食料の量などにより、人口調整しているのだろう。


 善悪や規範を超え、ただ真理だけが存在する世界。見たくないものを蔽い隠し、汚いものを排除し、その上で善人ぶる私たちの社会の対極にあるのかもしれない。


 ヤノマミはどんな時にもよく笑う。こんな理解も彼らが聞けば「アハフー」と独特の言い回しで手を打って笑うだろう。ヤノマミとは人間という意味。安易な理解を拒むほど深い人間の本質を、森の奥から笑い声とともに気づかせてくれる。


「ヤノマミ」(国分拓、NHK出版)の書評〜河合香織、読売新聞2010年5月30日付朝刊


 すごい話だ。

 実は、この本の元になったテレビ番組は何カ月か前に視ている。まさに文化人類学の教材になりそうなエピソード満載で、非常に面白かった。

 この手の番組を民放がつくると、売れない芸能人を調達して現地に短期間、送り込んで、住民との「心の交流」を安手のドラマ仕立てにして、「いっちょ、あがり」となる。本格的な取材に、「さすがNHK」と感心した。

 しかし、同時に「150日も同居して取材して、1時間番組をたった1本だけか」とあきれてしまった。

 NHKは、受信料のおかげでスポンサーや採算を気にせずに制作できるとはいえ、あまりにコストパフォーマンスが悪すぎる。使える材料をどれだけ捨てたのか。あるいは、もし5か月もいて、1本分の番組しか材料を仕込めなかったのなら、それはそれで問題だ。
 
 プロデューサーが本を書けば済む問題ではない。職務怠慢と言いたくなる。番組のコンセプトは強く支持したいが、国民の受信料を使っていることを考えれば、「プロの仕事」として重要な要素を欠いている。

 受信料を払っている一人の視聴者として、あえて苦言を呈したい。