夫婦同姓は近代の産物

儒教とは何か」(加地伸行中公新書)から夫婦別姓に関する部分を引用、または要約します。

 ◆夫婦別姓

 儒教では、その人の姓を重んじており、現代でも中国、朝鮮は結婚によって改姓しない。日本も江戸時代までは姓を持つ人々の間で改姓の習慣はなかった。
 
明治政府は明治三年(1870年)に平民に苗字をつけることを許可したが、普及しなかった。徴兵制度にともなう登録などの便宜のため、明治8年には苗字を義務付けた。しかし、この場合も夫婦別姓が原則であった。女性は結婚後も実家の姓を名乗っていた。明治26年になっても、内務省は結婚後に女性は姓を変えないようにとの指令を出している。
しかし、欧米のファミリーネームの影響か、明治31年の民法制定で「戸主および家族は、その家の氏を称す」(746条)ことになった。
 
 参考文献「日本の近代化と「家」制度」(熊谷開作、法律文化社

 「夫婦別姓は日本の伝統に反する」との議論をよく耳にするが、上記によれば、これは近代民法制定以来の日の浅い「伝統」ということになる。少なくとも、結婚後の改姓は反儒教的である。日本で同姓不婚が根付かなかったのは、一般大衆が姓を持つ歴史が浅かったからだと加地は推測している。

ちなみに、福沢諭吉は、夫婦はお互いの姓から一字ずつ取って新しい苗字を作るように提唱した。つまり、中村と田中が結婚すれば「中中」、「田村」などの姓になる。