「みすず」読書アンケート(2)

「みすず」読書アンケート(2)

「みすず」の読書アンケートの続きです。

 「イギリス炭坑写真絵はがき」(乾由紀子、本田辰己、京都大学学術出版会)
→英国では鉱山稼働の全盛期、中上流階級は増えつつあった「絵葉書」の図柄として炭坑労働者の姿を蒐集し、鑑賞した。貧困風景の審美化・作品化。「視覚と権力」の問題を実証。(新田啓子

 
社会的弱者を金持ちが鑑賞する構図。今、国立西洋美術館では、20世紀初頭の英国労働者の姿を多く描いたブラングィン展が開催されている。ブラングィンは松方コレクションのアドバイザーだった。上記の構図が当てはまるのかどうか。
 昨年、目黒美術館で「文化資源としての炭坑展」が予想以上の人気となった。図録は展覧会開催中に売り切れとなった。筑豊の炭坑での労働争議が生み出した「文化遺産」がテーマだったが、これも何かの関係を感じる。
 
ぎなのこるがふのよかと(谷川雁

「地を這う魚―ひでおの青春日記」(吾妻ひでお角川グループパブリッシング
→貧しさと迷いを抱えた青春の苦闘が丸っこい線の女の子たちによって、懐かしく「心地よい悪夢」に仕上げられている。(大谷卓史)

※吾妻は、「失踪日記」で、アル中のホームレスになった自分を、深刻ぶらず、自己憐憫なしに娯楽マンガにするという奇跡をなしとげた。(風船子)

「水の彼方」(田原、講談社)、
「北京陳情村」(田中奈美、小学館
反日、暴動、バブルー新聞・テレビが報じない中国」(麻生晴一郎、光文社新書
「ある鰐の手記」(邸妙津、作品社)

上記は、中国紹介では信頼できる藤井省三の推薦書

・「ドゥルーズガタリ交差的評伝」(フランソワ・ドス、河出書房新社
ドゥルーズガタリの本の読み直しを迫る力を備えている。(國分功一郎

・「身の上話」(佐藤正午、光文社)
→最近の浮ついた薄暗い小説にうんざりしている読者にお勧めの一冊だろう。(川口喬一)

・「江戸後期の思想空間」(前田勉、ぺりかん社
 →日本思想史研究の現時点での達成水準を示した。(苅部直

・「通話」(ロベルト・ボラーニョ、白水社

・「真昼の暗黒」(アーサー・ケストラー岩波文庫
→これほどのめりこんだ小説は久しぶり。なんといっても翻訳がすばらしい。(冨原眞弓)