「みすず」読者アンケート特集

みすず書房のPR誌「みすず」読者アンケート特集が出た。
新刊に限らず昨年1年間で興味を感じた本を約150人にあげてもらう恒例の企画で、この特集号だけは書店で売っている。評者は職業研究者が多い。一般書店ではなかなかお目にかかれない新刊を知ることができ、また、評者のセンスを測定できるとあって、毎年購入している。
紹介された本をとても全部は読めないが、気合いの入った新刊の題名をながめるだけでも、なんだか元気になる。

昨年は「群島―世界論」(今福龍太、岩波書店)、「主権のかなたで」(鵜飼哲岩波書店)、「政治の美学―権力と表象」(田中純東京大学出版会)あたりをあげる人が多かったが、さて今年は…

気になった本と評者のコメントを引用してみる。本日は、その第一回目。

・「アブサロム、アブサロム!」(W・フォークナー、河出書房新社
〜人種差別と近親相姦。アメリカ南部と聖書的世界の重奏。そして何よりも複雑怪奇な語りの妙味。結局、20世紀の前衛文学の中で一番しっくりくるのはフォークナーなのかもしれない。(金森修

・「ユルスナールの靴」(須賀敦子河出文庫
〜大書ではないのに、内側の世界が広々していて驚いた。エッセイというのは、もしかすると、小説に負けず劣らず、自由でたっぷりした器なのかもしれないと思った。(栩木伸明)
〜毎年、栩木氏の評は気が利いている。氏の著作は読んだことはないが、面白うそうだ。「アラン島」(シング)の訳者でもある。(風船子)

・「フェルディナン・ド・ソシュールー<言語学>の孤独、「一般言語学」の夢」(互盛央、作品社)
〜圧倒的な内容である。月刊誌の編集長をしながら、このような壮大なスケールの著作を仕上げるとは、とても人間わざとは思えない。(宮下志朗
〜今年は、この本を取り上げる人が多かった。書店で現物を手に取ってみた。ずしりと重い大書だ。はしがきには、学校の外で独学者として研究を続ける覚悟と楽しさがひしひしと伝わってきた。そばに置いておくと、エネルギーをもらえそうな気がした。(風船子)

・「ガリレオ・ガリレイ」(シリーズ「オックスフォード科学の肖像」)
〜原著は十歳前後の児童対象のシリーズ本らしい。シリーズはどれも面白いが本書と「マイケル・ファラデー」が突出していた。

・「アップルパイ神話の時代―アメリカ モダンな主婦の誕生」(原克、岩波書店
 〜「お袋の味とはイデオロギーである」という強烈な一文からはじまる。近代的な家庭に忍び込んだ政治的な力が神話になるまでの過程を、アップルパイというたった一つのひとつの料理に焦点をあてて暴いていく。(石原千秋

・「江戸後期の思想空間」(前田勉、ぺりかん社
 〜徳川時代の思想、とくに儒学国学は、日本思想史の研究の中でも、もっとも蓄積がなされている分野である。その現時点での達成水準をみごとに示した本。(苅部直

 ふーっ。とりあえず、本日はここまで。