注目!英国総選挙

 いよいよ英国総選挙の投票が5月6日に迫った。ブレア政権が誕生した1997年の総選挙から連続3回、現地で選挙を「見物」したので、今回は遠く離れていても、他人事のような気がしない。

 BBCによると、5月4日現在の世論調査では支持率は保守党35%、労働党28%、自由民主党28%となっている。

 自由民主党は、あえて乱暴な比較をすれば、これまでは日本の社民党のようなもので、政権を狙えるような政党ではなかった。それが世論調査を見る限り、完全に主要政党になっている。BBCの扱いも3党を並列しており、3党制は社会的にはすでに認知された形となっている。

 やはり今回の最大の注目は、英国がこれまで国是としてきた二大政党制に終止符が打たれるかどうかにある。

 資本主義対社会主義の二大陣営を軸としていた時代なら、その反映として二大政党制に合理性があった。しかし、今は、資本主義を大枠として認めたうえで、その資本主意義の「副作用」をどの程度、社会民主主義的な「薬」で緩和するかというのが、「社会主義国家」の中国も含め、世界の政治の大勢だ。これは、「主義」をめぐる二者択一ではなく、「薬」の処方量をめぐる問題である。薬の多少に関しては、無限に選択肢は分かれ、多党化は不可避となる。
この流れが、議会制度の発祥地である英国も飲みこもうとしているというわけだ。

 もちろんこの傾向は、冷戦終了直後から出ていた。

 ブレアは1994年に党首になり、翌年の特別党大会で、労働党社会主義的な背骨であった党則第4条(生産手段の国有化条項)を廃棄した。「ニューレーバー」と呼ばれた新路線は、ある意味で保守党への接近政策であり、これが政権奪取の大きな勝因となった。ブレア政権にとって二度目となった2001年の総選挙時には、保守系の英誌「エコノミスト」の表紙がサッチャーのかつらをつけたブレアの写真を掲げ、「サッチャーの正統な継承者はブレア」として従来の保守党支持から労働党支持への転換を打ち出したことも、労働党の保守党化を象徴するエピソードだった。

 一方、保守党側も、「金持ち政党」のイメージを払しょくするために社会政策への関心を打ち出した。
 たとえば「社会なんてものはない」という有名なサッチャーの発言を念頭に置いて、2002年ごろにイアン・ダンカン・スミス保守党党首(当時)は「社会は厳然と存在する」としてサッチャー離れを宣言して新しい保守主義を掲げた。これはうまくいかなかったが、新たな保守主義の模索という観点からは、今でも検証する価値がある試みだった。またキャメロン現党首も、環境保護や教育政策など労働党の縄張りとされる分野にも積極的だ。

 ただ、英国ではこれまでにも二大政党制がゆらいだことはある。

 20世紀初頭の英国は、19世紀の二大政党だった自由、保守の両党に、新興の労働党が加わり、三すくみの状態だった。また、1983年の総選挙では、自由民主党の前身である自由、社会民主両党の「連合」が得票率25%で、第二党の労働党(27%)に迫ったこともある。ただし、小選挙区制の影響で、獲得議席数は、労働党209に対し、「連合」はわずかに23だった。

 ともあれ戦後の英国の議会制度は、二大政党制を前提としてきたので、この制度が消えるとかなりの混乱が予想される。そもそも議場は二大政党が対面するように作られており、連立政権にでもなったら議席の位置配分から大問題になりそうだ。
影の内閣」も然り。「影の内閣」は、日本のように野党が勝手に作っているのではなく、国家制度の一部として認定されている。「影の首相」である最大野党党首には、議員歳費のほかに閣僚並みの報酬が出されている。

 日本は、冷戦崩壊後に、すでに歴史的使命が終わりかけている二大政党制をめざして政治改革をスタートさせた。1周遅れのランナーが先頭を走っているような錯覚を覚える。
 英国政治は、日本にとって参考になることが多いが、そのほとんどは日本からではほとんど見えないのが難点だ。今回も、「ブラウンの暴言」だけは日本のテレビでも大きく報道されていたが、基本的には地味な扱いだ。

とりあえず、BBCの選挙報道を紹介して、あとは結果を待つことにする。


http://newsvote.bbc.co.uk/mpapps/pagetools/print/news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/election_2010/8576614.stm