「みすず」読書アンケート11年版

 毎年恒例の「みすず」の「読書アンケート特集」紹介です。今なら大きな書店で315円で買えます。

 「今年は、今ひとつ、掘り出しモノが少ない気がする」というのが全体の印象だ。こちらの「驚く力」が弱まっているのかもしれない。ともあれ、小生のオンボロ探知機が反応した箇所をご紹介します。今日は、前半が対象です。

※2010年版

http://d.hatena.ne.jp/fusen55/20100224/1267026017

 「グランドツアー〜18世紀イタリアへの旅」(岡田温司岩波新書
〜ヨーロッパは一体との見方を覆す話が多い。ヨーロッパ的な美や崇高というのは近代の産物である。(評者=佐藤文隆
<この本は、他の評者もかなりとりあげていた。(風船子)>


「マビヨン通りの店」(山田稔編集工房ノア
〜決してメジャーな舞台に踊り出ないことを自らの義務と課しているかのような倫理的姿勢を感じさせる。(長谷正人)
〜この本も、今回のアンケートではかなり取り上げられていた。山田氏の本は、30年以上前に、「スカトロジア」を面白く読んだ記憶がある。(風船子)


「人生という作品」(三浦雅士、NTT出版)
〜「白川静問題」はドキッとした。啓発されたのは「モダニズム再考にあたっての一視点」。(酒井忠康


「土の文明史」(デイビッド・モントゴメリー、築地書館
〜土は地球のみに存在する。また四十六億年の地球史で私たちの「土」はごく最近に出現したもの。それは驚くほどもろいもので永遠とはほど遠いもの。(永田洋)


数学ガール」(結城浩ソフトバンククリエイティブ
〜学問のプロから中学生まで喜ばせる啓蒙書を書くことは常識的には不可能であるが、それをやってのけた稀有の書。(早川尚男)

「The Hare with Amber Eyes : A Hidden Inheritance」(Edmund de Waal)
「The Thousand Autumns of Jacob de Zoet」 ( David Michell)
「Occupied City」 (David Peace)
〜上記の三冊は、いずれも日本に暮らしたことがある外国人が書いた日本を舞台にした著作。上から、「根付コレクションの行方を軸にした陶芸家の回顧録」、「江戸時代、オランダ人と日本人との出島での出会いを描いた小説」、「第二次大戦直後の東京を舞台にした犯罪小説三部作」。評者は、日本史専攻のキャロル・グラック。(風船子)


「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子朝日出版社
〜中国の基底音が「史記」「三国志」とすれば、日本は「平家物語」「太平記」であろうか。今の日本人は北朝鮮を嘲笑するが、戦時中の日本を小学生で送った私は、むしろ、当時そっくりと思う。北の外国体験は軍国主義日本しかなかったのであろうか。先軍主義、強盛大国、統治者の世襲、そして核開発と戦艦大和、「ほしがりません、勝つまでは」と野草食の勧め。小潜水艇や高速漁船も何がなし特攻兵器を思わせ、当時を偲ばせないか。(中井久夫


ピストルズ」(阿部和重講談社
〜言葉だけによって支えられた壮大な建築性に感嘆したあと、書かれたいっさいを消してしまおうとする意思の破天荒さに圧倒される。(宮下敬三)


「晩夏」(アーダルベルト・シュティフタ―、ちくま文庫
〜まったくの時代錯誤としか言えない小説だが、通勤のあいまに少しずつ読み進めるには最適だった。たいへんよい経験をしたという思いがいまでも残っている。(飯田隆


「経済学の船出―創発の海へ」(安冨歩、NTT出版)
〜「生きるための経済学」に衝撃を受け、彼の本を読み漁った。冒頭で行われるマルクス価値形態論の読解は、本当に目から鱗が落ちる思いだった。車中で読みながら、最寄り駅での下車を忘れそうになった。そのまま乗り過ごしても後悔はしなかったろう。(國分功一郎


ユダヤ人の起源―歴史はどのように創作されたのか」(シュロモー・サンド、武田ランダムハウスジャパン
〜「ユダヤ人の発明」が原題。ユダヤ人という「民族」は存在しないし、ユダヤ人の「故国喪失と追放」という事実はなかったと主張する。(柿沼敏江


 ふーっ、本日はここまで。